江戸薬師考
「うーん……」
鏡を見つめながら、は唸る。
キャミソール一枚で覗き込んだその先。
鎖骨あたりにくっきりと浮かぶ模様に、は眉を寄せた。
「呪いとかでは、ないよねぇ……」
この模様とももう数年の付き合いになるが、今のところ実害はない。
その模様は、まるで赤い墨汁一色で描かれた目のようだった。
現代に帰ってきた当初は存在にすら気付かなかったが、この模様は日に日に色を濃くしていき、大学に入るころにはついにその存在を無視できないほど濃い色になった。
心当たりがないわけでもない。
どうやら以外の人間にはこれが見えないようで、なんとなく複雑な気分になる。
高校を卒業してから、早五年の時が過ぎていた。
年明けには国家試験を控えている。
いつか、と約束を交わした彼は、未だ現れない。
いや、もう二度と会えないと考えるべきか。
あれから二百年も経っているのだ。
その間に、新たに好きな女性が現できていたっておかしくない。
それならは、そんなことなど忘れてしまうべきなのだ。
けれど、どうしても忘れられない。
諦めきれない。
そもそも、こんなものを身体に刻まれて、どうやって忘れろというのか。
前言を撤回しよう。
この模様は、呪いに違いない。
私が彼との約束を忘れないために、彼が刻んだ呪い。
なんの覚悟もなしに、彼と約束を交わしたわけではない。
けれど、
「なによ、それなら早く会いにきてよ」
きっと叶わない。
自分は他の誰を想うことすら許されず、ただ彼を想って生きなければならないのだ。
そんな予感に、甘いような悲しいような切なさを覚えた。
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20110214