目的の場所が近付いてきて、私は進む速度を落とす。敵方の誰の視界にも入らないように気配を探りながら距離を詰めて、私は木の陰に隠れた。そしてそこから脅迫状で指定された場所の方を見れば、灰色の忍装束を着た男が四人と、忍たまの三人組がいた。どうやら今のところは無事らしい。忍たまたちは腕と胴を縄でぐるぐる巻きにされており、そこから延びる縄を忍装束の男たちが一人ずつ掴んでいる。四人のうちの一人はリーダーらしく、その横でどっしりと立ち、腕を組んでドクタケ忍者の訪れを待っていた。ここから見ただけだと予想より随分と敵の数が少ないように思えるが、気を抜いてはいけない。何故なら、この辺りには見えている忍び四人と忍たま三人以外の気配があるからだ。ほぼ間違いなく、敵方の方の仲間だろう。人数は十人といったところだろうか。さすがドクタケを相手にしようとするだけあって慎重だ。どの気配も私のすぐ近くには無く、皆リーダーである男よりも向こう側にいた。
私は手元の忍具と備品を確認して静かに動いた。もしも戦闘することになった際、ここまで人数に差があると普通に戦うのは色々と手間である。少々罠を仕掛けさせてもらうとしよう。
その手のひらで踊ってやるよ
「だからー、私たちはドクたまじゃないんですってば!」
「そうそう! いくら待っても誰も来やしないって!」
「るせぇ! 誰が信じるかそんな戯言!」
素早く罠を張り終えて元の場所に戻ると、忍たまと、忍たまをを攫った忍びたちが何やら言い争っていた。自分たちはドクたまではないと主張する忍たまたちの話を、彼らを攫った忍びたちは信じないようだ。忍たまたちは嘘はついていないのだが、このような状況では信じてもらえなくても仕方ないだろう。
私は呼吸をひとつ。ザッ、とわざと音をたてて敵の忍びたちの前に降り立った。私の姿を認めた忍び四人の視線が一斉にこちらに向く。敵方のリーダーは腰に手を当て仁王立ちし、にやりと笑った。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。待ちわびたぞ」
「それは失礼。特に時間の指定が無かったもので」
淡々と返す私を男は気にした様子もなく、にやにやと笑ったまま口を開いた。
「本当に一人で来るとは感心だなぁ。ドクタケにしては殊勝な心がけだ。褒めてやるよ」
「それはどうも」
攫われたのが本物のドクたまだったのなら、ここにいるドクタケ忍者はもっと数が多かったことだろう。だが、攫われたのはドクたまではなく忍術学園の忍たまで、私はドクタケ忍者としてではなく個人として彼らを助けに来ているのだ。ドクタケ忍者隊を率いてこれるはずがない。……それにしてもこの男、私の後をつけてきた土井半助の存在には気付いていないところを見ると、大した実力ではなさそうだ。無論、それだけで相手の力を判断するのは危険であるし、人数にも差があるので油断は禁物だが。
「さぁ、子どもたちの命が惜しけりゃ、ドクタケが手に入れた新しい武器の設計図を渡してもらおうか」
リーダーの男はさっそくとばかりに切り出した。どうやら気も短いらしい。
「それよりも子どもたちの解放が先だ」
私が静かな声で返すと、ふんっ、と男は不満そうに鼻を鳴らした。
「ドクタケ忍者が素直に取引に応じるとは思えん。設計図が先だ」
なるほど、一理ある。なにせ、ドクタケは日頃の行いがものすごく悪い。私でも逆の立場なら同じことを言ったかもしれない。しかし、新しい武器の設計図欲しさに子供を誘拐する相手方もなかなか信用ならないと思うのだ。私は溜息を吐いた。巻物を懐から出して、ゆらゆらと目の前で振ってみせる。
「欲しいのはこれか」
深い緑である柳葉色の巻物に、男の目が鋭くなった。
「中身が白紙ということはないだろうな? ドクタケのことだからな。その場で巻物を開いてみせろ」
「…………」
口数が多いとかえって怪しまれる。私は無言で男の指示に素直に従った。留め具を外し、くるりと巻物を開く。中から現れた鉄砲の設計図らしき絵に、おおっ、と忍びたちが声をあげた。
「これでいいか?」
「あ、ああ。どうやら本物のようだな……」
中の図がしっかり見えるようにして巻物を持てば、リーダーの男は分かった風に頷く。馬鹿だ。彼らは納得したようだが、実はこの設計図は偽物である。武器の設計図であることは間違いないのだが、これは最も一般的に普及している火縄銃の設計図なのだ。私は粗に気付かれる前にさっさと巻物を再び巻き直して自分の足元に置いた。
「私はこれをここに置いてそちらに行き、子どもたちを引き取る。おまえたちはそれと同時にこちらに来て巻物を取ればいい」
提案すると、リーダーの男は首を横に振った。
「ドクタケの指図は受けん。まずそちらがこちらに向かってその設計図を投げろ。無事受け取ったら子どもたちは解放してやる」
「……分かった。応じよう」
説得しても時間の無駄だろうと思い、私はなるべく感情を見せないように頷いた。これは完全に巻物を渡した後、子どもたち諸共抹消されるパターンである。設計図はどうせ偽物なので持ち逃げされても問題ないとして、子どもたちはなんとしても救い出さなければいけない。私は足元から巻物を拾い上げて、敵のリーダーの男の方へ投げてやった。
巻物が私の手を離れると同時に、リーダーの男が周囲に目線をやる。私はそれを見逃さなかった。リーダーの合図を受けて、周囲に隠れていた忍びたちが一斉に飛び出してくる。
「馬鹿め」
リーダーの男が嘲笑した。彼の仲間である忍びたちは私を取り囲むようにこちらに集まってくる。だが、私は前方上の方に跳んでさらりと敵の人垣を飛び越えた。まったく、一斉にかかってくるとは芸がない。「なっ」と驚愕の声がリーダーの男からあがる。飛び掛かってきた忍びたちの背後の方に着地ながら、私は右手の人差し指で千輪を回し、それを絶妙なコントロールで前方に投げて子どもたちを繋ぐ縄三本を一気に切った。子どもたちの縄を掴んでいた男たちは驚いたのか「わっ」と小さく悲鳴をあげる。走って子どもたちの方に向かいながら、ブーメランのように回転して戻ってきた千輪を左手の人差し指で受け取った。忍びたちが再び子どもたちを捕える前に私は彼らの前に辿り着き、素早く忍たまたちを引き寄せる。
「「「あっ、昨日助けてくれたお兄さん!」」」
忍たまたちは、ようやく今、昨日ドクタケ城の牢から自分たちを解放したドクタケ忍者と私が同一人物だと気付いたらしい。だが、感動の再会の余韻に浸っている暇はない。彼らをぐるぐる巻きにしているロープをこの場で切る時間的余裕がなかったので、私は右腕に乱太郎君ときり丸君、左手にしんべヱ君を抱える。ぐっ……さすがに少し重いな。思えども表情だけは涼しいまま、私は素早く後方に跳んだ。咄嗟に子どもたちを掴もうとした忍び三人の手はかすりもしなかった。
後ろ向きのまま跳んで逃げようとする私たちを、敵の忍びたちは追うことに決めたようだ。設計図――偽物だが――を手に入れるという目的は達成したはずなのだから引いてくれればいいのに。追手と僅かに離れたところで子どもたちを降ろし、私は素早く彼らを縛る縄を切ってやった。
「いるんでしょう? “土井先生"?」
気配のする方向に声をかけると、さっと目の前に黒い影が降り立った。
「乱太郎、きり丸、しんべヱ!」
「「「土井先生!!」」」
見知ったその保護者の姿に、忍たまたちの表情は安心したように緩んだ。私も密かに無でを撫で下ろす。これで心配事が一つ減った。
「それじゃあ、生徒さんは確かにお返ししましたから。時間稼ぎはしますので、早く彼らを連れて逃げてください」
「この状況であなたを一人にするわけには……!」
キィンッ。背後から飛んできたクナイを振り向かないまま自分のクナイで払い落として言えば、半助さんが躊躇いの声をあげたので私は微笑んだ。
「大丈夫です。私、こう見えて結構強いんですよ。……ほら、早く」
そう言って背中を向こう側に押してやる。忍たまたちが不思議そうな顔で私と半助さんの顔を交互に見詰めていたが、今説明してやる暇はなかった。さっさと彼らに背を向けて敵のいる方向に歩きだしてしまえば、半助さんは覚悟を決めたのか「いくぞ」と子どもたちを促して足早に遠ざかっていく。そう、それでいいのだ。元々今回の件は私の責任なのである。それに実際、私はこの程度の相手なら負ける気がしなかった。なにせ杜若のくのたま時代の私のあだ名はマウンテンゴリラだ。嫌がらせのようなあだ名だが、これはある条件をクリアしないともらえない大変栄誉ある称号である。杜若忍術女学園では、最高学年になると、毎年"ゴリラ"の称号をもらう生徒が何名か現れる。それは色の実習を受けずに卒業できる生徒のことだ。学園内で行う教科と実技は必修なので逃れられないのだが、色の実習は選択制である。ただ、杜若忍術女学園は卒業に必要な単位と点数のハードルが高く、ほとんどの生徒は授与単位の多い色の実習を受けざるを得なくなるのだ。杜若は女しかいないくのいちの養成学校だけあって、教科だけでもその手の授業内容は結構えぐい。男に対する夢も希望もすべて打ち砕かれて、それでも男と対等に渡り合うためにくのたまたちは男を悦ばせる手法を学ぶのだ。くのたまが色の実習の単位を取らなくて済むというのは、そのくのたまに、女としての武器を使わずとも男と渡り合えるだけの才があるということを意味する。そして、それほど力のある最高学年のくのたまのことを、生徒たちは敬意を表してゴリラと呼ぶのだ。まあ、つまり、「おまえそのパワーで女は人間じゃないよ。ゴリラだろ」ということである。閑話休題。
「追いついたぞ……ナメた真似しやがって……!」
追いついてきた敵と対面すると、リーダーの男がギラギラとした目でこちらを睨んできた。
「目的のものは渡したはずだ。元々そういう話だっただろう?」
冷静に問えば、男はこちらを馬鹿にするような表情で口元を歪ませて笑う。
「気分が変わったんだ。大人しくその命渡してもらおうか」
元々全員始末する気だったくせに白々しい。誰がこの程度の輩に命をくれてやるか。
手前にいた忍び二人が背中に差していた忍者刀をぬらりと抜いた。私はクナイを構える。
「やれ!」
リーダーの男の合図で、忍者刀を持った男二人が襲い掛かってきた。先程全員で攻撃しようとして失敗したことから学んだのか、今度は全員で一度に襲い掛かってくるのはやめたようだ。僅かに時間差をもたせて掛かってきた男たちの一人目の刀を右手に持ったクナイでいなし、相手の重心が傾いて前のめりになったところを右肩で押しやりながら二人目の攻撃を避ける。一人目の男が重力に従って倒れそうになっているところを背中に肘鉄を食らわせることで駄目押しすれば、男はぐっと呻いて倒れこんだ。それを見た二人目が躍起になって刀を振り回し始めたので、わざとギリギリで攻撃を躱しつつ木の側まで移動する。男が刀を振り上げいざ切り掛かるという瞬間にさっと木の裏に回り込めば、すっかり周りの見えなくなっていた男はそのまま木に突っ込み、刀は木に刺さって抜けなくなった。木から必死に刀を抜こうとしている男の背後に回り込んで首の後ろ手刀を落とせば二人目あがり。次に感じたのは四方から敵の近付く気配。しかし彼らの進む先には先程仕掛けておいた罠が用意されているのでその場で少し待つ。そんな私が油断しているように見えたのか、四人の忍びが一気に突っ込んできた。「「うわっ」」「げっ」思惑通り、四人のうち前方からやってきた二人は同じ罠を踏み、網にかかってガササッと音を立てながら高い木の上に引っ張り上げられていった。その拍子にクナイも落とした二人は、為す術もなく狭い網の中まるで漁師に引き上げられた魚のように暴れる。暴れれば暴れるほど彼らの体勢がきついものになっていくのが滑稽だ。背後から忍び寄ってきていた二人のうちの片方は一人用の罠にかかり、両足を縄に縛られた状態で先程の二人同様木の上まで引っ張り上げられて逆さ釣りの状態になった。残る一人は罠には掛からなかったのだが、仲間が罠にかかったのを見て怯んでいるところに素早く近づき、鳩尾に蹴りを入れてやればあっさり倒れた。これで六人だ。
「ドクタケ忍者一人にお前らは何を手こずっているんだ! 早く始末しろ!」
仲間が次々と倒されていくことに焦りを感じたのか、リーダーの男が喚く。それに急かされるように攻撃を仕掛けてきた忍びたちはもはや冷静さを失っていて、一人が罠を踏み、近くにいた
忍び三人がそれに巻き込まれて巨大な落とし穴に落ちて行った。今ので十人。呆気無さ過ぎる……。
さて、これで残るはリーダーの男と、先程まで忍たまたちを捕えていた三人の部下だけである。部下の男たちが刀を構えた。そして目線だけで言葉を交わした男たちは、次の瞬間、左から二人、右から一人でこちらに向かってきた。右斜め前から飛び掛かってきた男の刀を後ろに跳んで躱して、真左と斜め前から襲ってきた男たちの刀を、右斜め前の男の背後に回り込むことで回避する。慌てて方向転換した左側の忍び二人は右に居た男に掛かっていく形となり、右に居た男は「うおっ」と片方の刀を自分の刀で受け止めた。だが、躱しきれなかったもう一人の方の刀が男の左肩を僅かに削ぐ。ぱたっ。降り積もった木の葉の上に、軽い音を立てて小さな肉片が落ちた。「っ、ぐ……てっ、めぇ……!」「わ、悪い!」傷を受けたその男は痛みに額に脂汗を浮かべて膝をついた。仲間を切ってしまった男は顔を青くしてあわあわと震える。刀を交わしていた方の男は、目の前で崩れ落ちる仲間を唖然と見つめた。そんな彼らの隙を見逃してやるほど私は優しくない。彼らがはっとこちらを見たときにはもう遅く、私は彼らの眉間に拳を叩きこみ、よろめいたところをまとめて近くの落とし穴に蹴り落とした。
「さて、残るはあなただけだ」
「くっ……!」
私は肩を削がれた男の落とした刀を拾い上げ、リーダーの男に向かってにっこりと笑いかけた。
「どうする? 部下を見捨てて逃げるか? 設計図を置いていくというのなら、見逃してやらないこともないが」
私はわざと新しい武器の設計図の話題に触れた。それはリーダーの男に元の目的を思い出させるため、そして男が手にしている設計図が本物であると信憑性を持たせるためであった。ここで男が偽物の設計図を持って逃げてくれたら上々。私は戦闘狂ではない。避けられる争いならば避けたいと思う。……そして思惑通り、リーダーの男は私の作戦にかかった。巻物を手に、リーダーの男は背後の木の枝にひょいっと飛び上がる。
「ふん、設計図は既にこちらの物。今更見逃してもらうまでもない。逃げ遂せてしまえばそれまでだ。残念だったな!」
「なにっ?」
別に全く残念ではなかったが、私は悔しそうな表情を作ってみせた。せいぜい後で設計図が偽物であることに気付いて悔しがるといい。
「この借りはいつか必ず返すからな! 覚えておけよ!」
そう捨て台詞を残し、リーダーの男は部下たちを置いたまま去っていった。
男が去っていった後、私は残された部下たちを縄で縛る作業をしていた。十三人もいるので中々大変である。今回の件については事前に稗田八方斎様の許可を得たうえで関わっているので、一応の成果を見せなくてはいけない。これだけ敵の忍びを捕えていれば八方斎様もお喜びになるだろう。どこの城の忍者なのかも後でしっかりと聞きださなくてはならない。それにしても、こうもあっさりと見捨てる上司の下で働いているとは気の毒な部下たちだ。その点、ドクタケの忍者は仲間を見捨てるような真似をしないので憎み切れないんだよなぁと思う。十人目の敵の部下を縛っていると、ふとこちらに近付く気配を二つ感じた。一つはすぐ近くから感じる気配、そしてもう一つは遠くからこちら側にやってくる気配だ。この気配は……。
「半助さん?」
小さな声でその名を呟く。先程子どもたちを連れて去っていったはずの人物が戻ってくることに私は首を傾げた。程なくして、半助さんは私の前にその姿を現す。そして彼は私の姿を見るなり大きな声で叫んだ。
「さん、後ろ!!」
辺りに響く、彼の焦ったような声。もう一つの気配が背後から私を襲い掛かってこようとしているのは勿論気付いていた。この気配は一番最初に倒した敵の忍びのものだ。肘鉄の威力が足りなかったのだろう。密かに意識を取り戻したかの忍びは、自分を見捨てた上司から与えられた任務を遂行するつもりらしい。健気なことだ。だが、私を襲い掛かってこようとしている男と私の間には罠が二つ連続して用意してある。男の向かってくる感じからいって確実にどちらかには引っかかるだろう。ただ、おそらく、半助さんの位置からその罠は見えていない。だからこうも焦った声なのだ。ひゅんっ、といつかのように私の真横を白いチョークが通り抜ける。そして。
――スコーン! ズササササーッ!
チョークが敵にぶつかった音。そしてそれと同時に私の仕掛けた罠が発動がする。私の背後から刀を持って近付いてきた男は、眉間に当たったチョークで意識を失い、更に罠に引っかかり足を縄に取られて木の上で宙吊りになった。
「!」
半助さんの顔に驚いたような表情が浮かぶ。私はそれを見て思わず笑ってしまった。自分で仕掛けた罠に掛からないように気を付けながら、私は半助さんの方へと歩み寄る。
「戻ってきてしまったんですか? 土井先生」
笑顔のまま尋ねれば、半助さんは少しばつの悪そうな顔をした。自分が手を出さずとも私が大丈夫だったことに気付いたのだろう。
「……どうしても心配で」
困ったように紡がれた声には確かにこちらを心配する色が含まれていて、私は苦笑した。
「大丈夫だと申し上げたのに」
「そのようで」
穏やかに抗議すれば、彼も苦笑いを浮かべながら同意する。
「子どもたちは?」
「ちょうど山田先生と出くわしたので預けてきました」
気になっていたことを尋ねれば、半助さんはあっさりと答えた。山田先生……山田伝蔵か。一年は組の実技担当。私は長期任務の事前に手に入れていた情報からすぐにその人物を割り出した。なるほど、受け付けが別だっただけできっと山田伝蔵もドクタケに来てたのだろう。それにしても。
「大事な忍たまを他の先生に預けて、ドクタケ忍者なんかを助けに来るとは甘いですねぇ……」
本当はすごく嬉しかったのだが、照れ隠しでつい可愛げのないことをいってしまう。だめだなぁ、普段ならもっと上手くやれるのに。くのいちならば男心に取り入ってなんぼである。けれど、そんな私に半助さんはこちらを見て悪戯っぽく笑った。
「山田先生は信頼できるのでいいんです。それに、甘いというのなら、あなたほどじゃないと思いますよ」
「そうですか?」
私は首を傾げた。
「そうです。どうして忍たまたちを助けてくださったんです?」
彼の質問に「ああ、そのことですか」と私は眉を下げた。だって、忍術学園ではないけれど、かつて忍術を学ぶ学校に属していた私があの子たちを見捨てられるはずがないではないか。教師や先輩たちに守られ、忍術を学ぶ以外の不安を排除してもらい、教え子として最大限愛を注いでもらったこの私が、それを否定するような行為をできるはずがない。非力な雛鳥の翼を手折ることは容易く、大空を飛べる鳥に育て上げるのは難しい。脈々と受け継がれてきた教師や先輩からの想い、その精神を、確かに受け継いでいる私が、それを下の世代へ返していくことになんの不思議があるというのだろう。教師は、先輩は、いったい何を思って私たちを育て上げてくれたのか。彼女たちがはっきりと口にしたことはない。けれど、私はその答えを知っている気がするのだ。だって私もかつては"先輩"で、今だってドクたまの"先生"をしているのだから。私は多くを語らず、ただ微笑んだ。
「……忍たまは可能性ですから」