食堂に着くなり、は橙色の髪の少年に話し掛けられた。
「君が新入り?」
にっこりと笑ってかけられたその台詞に、自然との口の端が上がる。
おそらくここに来てから最も自然な笑みを、は浮かべていた。
「はじめまして。です」
それは、条件反射のようなものだった。
朝、友達におはようと笑顔で言われたら、笑顔でおはようと返す、そんな笑み。
互いに、どこまでも自然だけれど、どこまでも意味のない。
それは、自分の故郷を彷彿させて、少しだけ心地よかった。





最果てへの片道切符





その少年も、最近入団したばかりらしい。
彼は自分をラビと名乗った。
「それは、本名ですか?」
「なんで?」
「ここのひとたちって、みんなファミリーネームまで名乗るでしょう?」
彼は少しだけ驚いたような顔をしてから、再び笑みを浮かべた。
「本当の名前は、大昔に捨てた」
「なるほど」
は興味無さげにその会話を終わらせる。
とくべつ相手のことを知りたいわけでも、深い仲になりたいわけでもなかったから。
すると彼は「って変わってるさー」と笑った。
「そうですか?」
彼の言わんとすることを、は理解できないわけではなかった。
思うに、この世界の人間は……少なくとも、この集団に属している人間は、情に熱いのだろう。
「他人なんて関係無い、って顔するんだな」
「あなただって、似たようなものでしょう?」
それは、が彼に心地よさを感じた理由のうちのひとつである。
のいた世界で、やラビのような人間は別段珍しくない。
から言わせてもらえば、彼はある意味どこまでも人間的だった。
ラビが何かを返そうと口を開きかけたそのとき、席にコムイが戻ってきた。
「はい、ご注文のサヌキウドン」
「ありがとうございます」
聞き覚えのない単語をうまく発音できないらしい。
そんな様子を少しだけおもしろいなと思いながら、は礼を言う。
いまだ足取りのおぼつかないの代わりに、彼は食事を運んできてくれた。
感情はどうであれ、何かをしてもらったらお礼を言うのは、きっとどの世界でも常識だ。
「ラビと、打ち解けたみたいだね」
その言葉には、どんな意味が込められていたのか。
は曖昧に笑ってみせた。





「あ、コムイ室長こんなところでサボってたんスか!?」
「いやだなー。これはれっきとしたお仕事だよ」
白衣の集団。
彼らの叫びに、てへっと可愛らしく笑ってみせるコムイ。
はちょうど、うどんの麺を全て食べおわった頃だった。
視界の端に彼らを入れつつも、静かにうどんのつゆをすする。
「え、じゃあそこの女の子がもしかして……」
「そうそう。新入りさんだよーん」
どうやら話題になっているのはのことらしい。
無視するわけにもいかず、はそっと顔をあげた。
「わあ! 本当に女の子だ! リナリーが喜ぶね!」
「おいジョニー、行儀悪いぞ」
くわっ、とテーブルの上に身を乗り出したうずまき眼鏡の男を、不精ひげの生えているなんだか疲れた感じの男がたしなめる。
「ねえねえ! 団服はどんなのがいい?」
「ジョニー!」
更に身を乗り出したうずまき眼鏡の男。
は思わず身を引いて、疲れた感じの男はついに怒鳴った。
はどうしたらよいのか分からず、ラビの方を向いてみる。
「オレの時もこんな感じだったんさ……」
それに気付いたラビは、少し遠い目をしながら言った。
よく分からないまま、はなるほどと頷くのだった。





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20071007