ぐらりと視界か揺れた。
立ち上がろうと力を込めたはずの足は、思うように動かない。
体が傾いていくのを感じながら、ああそういえば丸2日何も口にしていなかったっけ、は気付く。
コムイの慌てたような表情。
それを見たのを最後に、の意識はいったん途切れた。





最果てへの片道切符





「軽い脱水症状ですね」
医療班がそう告げるのを聞いて、コムイはため息を吐いた。
そういえば、彼女に水を与えることも食事を与えることもしなかったな、と思い出す。
あまりにも彼女を気遣う注意が欠けていた自分に、軽く嫌気がさした。
感情を殺すことはしても、怠ってはいけないことがあったというのに。
「やっぱり、恨むかな」
無理矢理戦争に引きずり込んだ自分を。
ほんのひとかけらの同情も示さなかった自分を。
恨みをかうのは慣れている。
自分にはそれくらいしかできないから。
エクソシストを、命の危機にさらすことしか。
「君には、恨む権利がある」
そう口にしながらも、そう許しの言葉を与えながらも、全面的に彼女を信用しているわけではない自分がいる。
それは当然だし、正当なことではあったけれど、彼女に対してはあまりに不誠実に思えた。
信用していないのなら引き入れなければいいのに。
寝ている彼女に、なんとなくそう責められている気がした。





目を開けてが最初に見たものは白い天井だった。
次いで、消毒の匂いが鼻につき、状況を把握する。
そうか、わたし倒れたんだっけ。
腕に刺さっていた点滴の針を恐る恐る抜き点滴のボトルに巻き付け、は床に足を下した。
どうやらここは医務室のようだ。
足の裏から伝わるひんやりとした感覚に、靴はどこだろうとは部屋を見渡す。
立ち上がると少しよろめいたけれど、歩けないわけじゃない。
ぺたりぺたりと動き回っていると、部屋のドアが静かに開けられた。
「ああ、気が付いたんだね」
「………」
「気分は?」
「……、最低です」
が告げれば、男は苦笑した。
「おなかが、空いているだろう」
無言で頷く。
「食堂に案内しようと思うんだけど、歩けるかい?」
無理なようなら何か運んでくるけど。
そう言った彼に対しては、大丈夫です、と答えた。
これを逃したら、食堂の場所を知る機会がいつになるか分からなかったから。
「あの、わたしの靴、どこですか」
部屋から出るならば、流石に靴をはかなきゃまずいだろう。
コムイは少し首を傾げて、ああ、という顔をした。
「あの靴は、君の足に合っていなかっただろう?」
「……おろしたてだったんで」
そんな靴で全力疾走した足は、いまだに少し痛んだ。
「少し、改良したんだよ」
ちょっと待っていてね、と言い残しは部屋を出ていく。
本当にすぐ、彼は戻ってきた。
そんな彼の手には、見覚えのある一組の靴。
改良したと言っていたが、特に見た目の変化はみられなかった。
彼はの足元にその靴を置く。
は、靴の中にそっと足を入れた。
とんとん、と足のつま先でしっかりと履く。
「…ぴったり……」
まるで履き慣らした靴のように、それはの足に合っていた。
少し驚いて呟けば、コムイは嬉しそうに笑う。
それじゃあ行こうか、と彼は手を差し出したけれど、にはまだその手をとる勇気はなかった。





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20071005