が目を覚ますと、太陽はもう真上だった。
しっかりベッドに入って寝なかったせいか、軽く喉が痛む。
水が飲みたい。
けれどこの部屋に水道は通っていないようだったし、あったところで外国の水道水なんて飲みたくない。
がそこまで考えたところで、突然なんの前触れもなく部屋の扉が開いた。
は思わず身を退いたが、部屋に入ってきたのは見覚えのある人間で、こっそりと安堵の溜息をつく。
「おい、コムイが呼んでる」
「……神田さん」
ノックくらいしてほしい。
日本人なんだら礼ぐらい重んじろ。
けれどそんなことをこんな恐ろしい人間に面と向かって言えるはずもなく、は頷きもせずに彼の後に続いた。
最果てへの片道切符
「それじゃあちゃん、シンクロ率を測定するからね」
「シンクロ率……?」
それ、何ですか。
「うーん……まあ簡単に言えば、君とイノセンスの相性みたいなものかな」
「はあ」
それでもよく分からない。
コムイは少し苦笑いして、百聞は一見にしかずだよと言った。
結果から言えば、のシンクロ率とやらは46%だった。
他のエクソシストたちと比べてこれはかなり低い数値だっだ。
困ったなぁ、なんて呟いているコムイを、は無言で睨んだ。
シンクロ率の測定とやらが、あんなに恐ろしいものなんて聞いていない。
「この分だと、戦力になるには少し時間が必要みたいだ」
シンクロ率の低さは、エクソシストをそれだけ死の危機に追いやる。
そんな言葉を聞いて、はシンクロ率とやらが低かった自分を心の中で誉めた。
少なくとも、今すぐに戦場に放り出されることは無いようだ。
そもそも、戦う気なんてないけど。
一晩寝て冷静になろうが、のその気持ちだけは変わらない。
「とりあえず、君には今日から訓練をしてもらおうかな」
「嫌です」
さも当然というように言ったのを、はコンマ秒で断った。
水分を摂取していない喉は、少しかすれた声をだす。
コムイはたいして驚いた顔もせずに、曖昧な笑みを作った。
それは妙にの勘にさわる。
「ちゃん、取引をしよう。我々は君に衣食住を提供する。その代わり、君はエクソシストとして働く」
どうだい? と聞いてきたコムイに、はにっこりと笑って首を傾げた。
「もしかしてわたし、ナメられてます?」
コムイの笑みが、僅かに剥がれた。
驚いたような、顔。
衣食住の話を出せば断られないとでも思っていたのだろうか。
「そんなのは、ここにいる人間すべてにしている待遇でしょう。そんなの取引をするに値しません。そんな条件で命懸けの戦いを強いられるくらいなら放り出されたほうがマシです」
言葉は通じるのだ。ちょっと軸は違うかもしれないが19世紀のイギリスなら住み込みで働くことができる場所が見つけられるかもしれない。
運動はあまり得意とはいえないが、頭のデキならばまぁそれなりに自信もある。
だいたいにして、あんなお粗末な部屋を充てておいてなにが衣食住の提供だ。
「それなら、君がエクソシストになってもいいという条件は?」
「ありませんよ、そんなもの」
もとより、は戦う気なんて無いのだ。
戦い方なんて知らない。
戦争なんて、まったく関係の無い環境で生きてきた。
ニュースで外国の戦争の様子をみたことはあっても、自分には所詮ブラウン管の向こうの話。
かわいそうだとか、大変だろうなとか思うことだってあった。
けれどそれだってやっぱりには関係の無いことで。
ふう、とコムイがやや重い溜息をついた。
「ちゃん。この際だから、ハッキリ言っておこう」
「なんですか」
「我々教団側は、エクソシストである君を手放す気はない」
「………」
「君がそのイノセンスの適合者である限り、他にそのイノセンスを扱える者は現われない。こちらが君を手放す最大限の譲歩があるとすれば、それは、
君が死んで、そのイノセンスを我々に引き渡す場合のみだ」
は思わず、絶句した。
それは明確な脅しだった。
役に立つ気がないのならば、殺すと。
殺して、新しい戦力を探すのだと。
は座っていた椅子からガタリと立ち上がった。
「そ、んな……そんなことっ!!」
現実を否定するように、は叫んだ。
許されるものか。
世界を救うための機関が、そのために役に立たない命を摘もうなどと。
そんなことが、許されるはずない。
それがこの世界のことわりだというなら、それはあんまりにも、
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20071005