羽の折れたゴーレムに録音されたルベリエとコムイの会話を一通り聞き終えたは上半身ごと首を傾げた。
「う〜ん……」
 新しい情報が多過ぎて整理しきれていなかったが、つまるところクロス元帥とアレンの師弟に黒の教団の敵なのではないかという疑いがかかっているみたいだ。しかもアレンは本人の無自覚にノアの一族である可能性があるという。
(わたしにできること、無いよなぁ……)
 話が壮大過ぎて迂闊に手出しできそうにもない。正直なところ自分の手には余る情報だ、というのがの感想だった。……少し、成り行きを見守ってみるとするか。
(そうだ、コムイさんの白衣のポッケにこのゴーレム忍ばせておこう……ちょっと大きいかな? 解体して録音機能の部分だけ取り出せるかな?)



最果てへの片道切符





 翌朝、食堂へ朝食を摂りに訪れたはすぐにその場の雰囲気に気付いた。
(うわー、ヤな空気ー)
 どうにも覚えのある空気だった。かつて、がこの世界のために戦う気がないことを団員に広められた時の空気と似たような空気。あの時と少し違うのは、不安や戸惑いも含まれているという点だろうか。
 耳を澄ませて周囲の会話を聞けばその原因はすぐに分かった。どうやらクロス元帥とアレンの話が一般団員に広まってしまっているようである。教団の情報管理能力低すぎないか? わざわざゴーレムを使って盗聴する必要はなかったな、と欠伸を噛み殺しながらはぼんやりと思った。……まあ、正確な情報を手に入れるためにコムイへ盗聴器は仕掛けるけれど。昨夜はゴーレムをあれやこれや弄っているうちに就寝するのがすっかり遅くなってしまったが、おかげで小型盗聴器は無事完成した。
 今日の朝食は岩のりと温泉卵のお粥にした。お米はやや噛み応えのある雑穀入り。とろっとまろやかに炊かれたお粥にはエビやイカ、ホタテなど魚介のダシの味がよく染み込んでおり、岩ノリの磯の風味がよく調和している。これだけでも十分おいしいけれど、温泉卵を少しだけ崩して時折お粥と絡めて食べるともう最高なのだ。舌を火傷しそうなほど熱いお粥をふうふうと冷ましながらいただく。
 朝食をあっという間に平らげて空の器をカウンターへ返すと、は足早に自室へと戻る。彼女は朝食を食べながら思いついたのだ。そうだ、今自分の傍を飛んでいるゴーレム――本部に戻ってきてから再支給された物である――も解体して録音機能の部分だけ取り外そう。そうしたら同時に二人盗聴できるぞ、と。



 さてさて。そんなわけで。
「いや、なんかちょっと騒がしい気もするなーとは思ったんですよ? 建物も少しだけ揺れた気がするし? まあでも地震かなー、せいぜい震度3くらいかなーって思って。アクマが本部に侵入してるなんて夢にも思ってみませんでしたし。それよりもゴーレムの解体に夢中になってて。あと眠くて」
 ゴーレムを解体して2個目の盗聴器を作り、睡眠不足を解消するために欲望のままベッドで睡眠を貪っていたら、いつのまにか黒の教団の本部が半壊していた。な、何を言っているのかわからねーと思うが、わたしも何が起きたのかわからなかった。ちょっと遅めのランチを摂りに行こうと思ったら食堂が食堂として機能していなかった。団員の個室がある最上階と科学班のラボがある地下7階は同じ建物内といえど距離が離れており、若干の揺れは感ずれど喧騒はほとんど届かなかったのだ。ちなみにの部屋はの安眠確保のために防音の部屋に改装までされている。通信用のゴーレムは解体中だったし、気付けという方が無理な話だ。
「……、さすがの僕でもちょっと引きます」
「ええっ!?」
 そんな! 擁護派最大手のアレンくんに引かれるなんて!少々オーバーにショックを受けたような表情を作ってみせたに、アレンは医務室のベッドの中で苦笑いを浮かべた。
「ていうかなんでゴーレム解体してるの」
 とともにアレンを見舞っていた隣のコムイがもっともな疑問を口にする。彼は科学班の人間だから、自分たちが作ったゴーレムが解体されたなんて尚更衝撃的な話だろう。
「こんなに小さいのに高性能なんて中身どうなってるのかなー? みたいな? 好奇心? ……あ、バラバラにしたら部品床に撒いちゃって元に戻せなくなっちゃったんですけどね。スミマセン」
 大嘘である。本当は録音するためのパーツを取り外すために解体していたし、取り外したことによってゴーレムが本来の機能をまっとうできなくなったので新しいゴーレムが欲しいだけである。
「ハァ…………」
 コムイは深々と溜息を吐いた。アレンと再会してからのは自由人っぷりに拍車が掛かった気がする。
、地震だと思って驚かなかったの?」
 イギリスでは地震というのがめったに無く、あったとしても体感できないほどごくごく小規模なことが多い。ちなみにが元居た時代では震度2程度の地震が起きても大ニュースになるとことがある。
「日本ってとても地震が多い国でして……。ちょっとやそっとの地震じゃ誰も驚かないんですよね。建物の耐震性も強いですし……」
 同じ島国なのになんという違いだろう。日本で生まれ育っていれば震度4くらいまでならほとんどの人間が動じないんじゃないだろうか。
 先程のアレンの“引く”発言を引きずっているのか、少しだけしょんぼりとした様子で説明するに“しょうがないなぁ”とアレンは口元を緩めた。
「まぁ今回はが居ても戦力にはならなかっただろうから巻き込まれなくてよかったけどね」
 ね、コムイさん? とアレンに同意を促されてコムイも頷く。今回の戦いで教団が受けた被害は大きい。エクソシストが一人も欠けなかったことは不幸中の幸いとしか言いようがなかった。
「そうだね……実際ちゃんでどうにかなるような相手じゃなかったし、戦闘命令出さなかったことに長官も何も言わなかったくらいだから」
 は俯きがちになっていた顔をぱっと上げた。
「そうですか? そう言ってもらえると気が楽ですね!」
「待って、やっぱり反省して」
 即座に突っ込んだコムイに、アレンが声をあげて笑う。
「あははっ、相手だとコムイさんは振り回される側なんですね。新鮮で面白いなぁ」
 アレンの言葉には思わず隣にいたコムイを見上げた。コムイも複雑そうな表情でを見下ろしている。
「…………」
「…………」
 お互い相手の顔を見ながらしばしの無言。
「えーと。……ともかく、ちゃんが無事ならよかったよ」
 沈黙に耐え切れなくなったコムイが無理やり綺麗にまとめた。



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2017.11.21