「フジ子は英語も話せたんですね!」
「まあ、いろんな所を旅してましたからねー」
ぶっちゃけ中国語より英語の方が得意です、とは口にしない。
まあ、一番得意なのはもちろん母国語の日本語だけど。
先程まで中国語で話していたためまったくわたしとクロスさんの会話に混ざれなかったアレンくんは、今は嬉々としてわたしと会話していた。
「知識が豊富なんて、ますますイイ女だな、フジ子」
「うふふ、それはどうもー」
この男の言葉を真面目に受けとめてはいけない、と短い間で理解してしまったわたしは、彼の言葉を軽く流した。
かわりにクロスさんに突っ込んだのは、アレンくん。
「師匠! 歳の差いくつだと思ってるんですか! 犯罪ですよ! 犯罪!」
「17歳は立派な女だろ?」
「師匠!!」
元気だなぁ、なんて思いながら、わたしはふたりのやりとりを見つめていた。
最果てへの片道切符
目的地までの道程は遠い。
まして徒歩ならなおさら時間がかかる。
決して急いでいるわけではない一行は、日が沈む前に辿り着いた小さな町で一晩明かすことにした。
「フジ子! トランプしませんか? トランプ!」
一人部屋をとっていたの部屋に乗り込んできたのはアレンだった。
どうやら彼はここ数日野宿だったらしく、久々に泊まる宿にテンションが上がっているらしい。
「トランプ? 何するんですか?」
部屋に備え付けられていた聖書を、暇つぶしにベッドで横になりながら読んでいたは身を起こす。
本をぱたりと閉じて元あった場所に戻すと、はアレンに近寄った。
「ポーカー!」
「え。ふたりで?」
ポーカーはふつう、4人でやるゲームである。
まあ、2人だとやれないというわけでもないのだが。
「ダメですか?」
「うーん、アレンくんが楽しいなら、それでも構わないんですけど」
そもそも、トランプゲームに2人でやって楽しいゲームは圧倒的に少ない。
瞬時に思い付く2人用のトランプゲームなど、スピードくらいである。
「大丈夫です。ふたりでやりましょう!」
「一応言っておきますけど、賭けはしませんからね?」
「ええー」
言わなきゃ賭けるつもりだったのだろうか、とは少しげんなりする。
「一人旅をしているうら若き乙女から金品巻き上げようなんて紳士道に反しますよ?」
「すみません……」
本気で反省しているらしく、彼はしゅんとうなだれた。
「……わたしから金品巻き上げなきゃいけないほど、お金に困っているんですか?」
尋ねれば、アレンくんはぱっと顔をあげた。
光のなかった瞳がギラリと輝き、彼は表情を変えて口を開く。
嫌な、予感がした。
「聞いてください! 師匠ってばひどいんですよ!」
これは、長くなりそうだ。
そして彼の口から長々と語られた真実に、わたしは深々とため息をついたのだった。
部屋に、月明かりが差していた。
「馬鹿弟子が迷惑かけたな」
「クロスさん」
遊び疲れての部屋で寝てしまったアレンを、クロスが迎えに来た。
クロスはアレンの片足を掴み、そのまま乱暴に俵持ちにするが、アレンが目覚める気配はない。
「フジ子、こいつのことどう思った?」
「どう、といいますと?」
いまいち質問の意味が分からず、は首を傾げる。
クロスは探るようにを見た後、口を開いた。
「こいつは髪の色も、顔の模様も、……左手も、普通じゃねぇだろ」
「え、そうですか?」
「…………」
「…………」
心底不思議そうにきょとんとした表情を浮かべられて、クロスは一瞬言葉を失った。
しばらくの間じっとクロスを見つめていただが、相手が何も返してことに少し困ったような表情を作る。
そうしてまたほんのしばらくしてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「わたしが長く暮らしていた国には、色々な人がいましたよ。青や緑、ピンク色の髪の人もいましたし(カラーリング。ピンクとかはめったにいないけど)、顔や舌に針を刺している人もいました(ピアス。普通は耳だけど)。背中に龍がいる方もいましたし(刺青。しかもどう見たってヤのつくお仕事)、べつにアレンくんを見て驚くようなことはないですよ?」
わたしは基本的に、無害ならば外見は気にしない。
さすがに、背中に龍のある人には近寄ろうと思わないけど。
心の中でそう付け足してから、は長身のクロスを仰ぎ見る。
しばし唖然との話を聞いていたクロスだったが、やがてその表情を苦笑に変えた。
「そりゃあ、うちの馬鹿弟子程度じゃ驚かないわけだな」
でしょう? とは悪戯っぽい笑みを返す。
はクロスに担がれてるアレンの頭にそっと手を伸ばし、優しげな手つきで撫でた。
の手の暖かな熱に、眠っていたアレンが僅かに微笑んだ。
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20080701