最果てへの片道切符





女子の一人旅なんていうものは、概ね危険なものである。
野盗や暴漢、人さらいのたぐいの人間にいつ出くわすか分からない。
そしてまた、この世界において恐れなければいけないものは人間だけではなかった。
「ぎゃー! また出た!!」
どっかーんという轟音と共に、の背後の地面が抉れた。
は全速力で走りながら、コートで隠れているホルスターに手を伸ばす。
備えられているものは拳銃ではない。
の対アクマ用武器である扇子、“舞姫”だ。
ホルスターは教団にいたときに団服と共に作ってもらった、いうなればオーダーメイド品で、サイズはきちんと扇子に合わせてあり、また、丈夫だった。
舞姫に手を掛けながら、はアクマとある程度まで距離をとり、逃げるタイミングをうかがう。
大丈夫、相手はレベル1だ。逃げ切れる
闘って壊すつもりなんてさらさらない。
よし今だ、とが舞姫を抜きかけた瞬間、

――ざんっ

音と共に、アクマの気配が掻き消えた。
が舞姫から手を離し、慌てて振り向けば、そこには消えゆくアクマとふたりの人間。
片方は仮面を着けた長身の男で、もう片方は白髪の少年だった。
「大丈夫ですかっ!?」
少年がそう叫ぶのを聞きながら、仮面の男が着ている服に目をやり、は軽く絶望を覚えた。





仮面の男はクロス・マリアン、白髪の少年はアレン・ウォーカーと名乗った。
「峰フジ子デース」
相手に名乗られてはこちらも名乗らないわけにもいかず、しかしエクソシスト相手に本名を明かすわけにもいかないは、とっさに偽名を名乗った。
某有名アニメに出てくる、せくしーな悪女の名前である。
そこ、体型が全然違うとか言わない!
彼女のような色気がないのは自身でも重々承知である。ネタが分からないひとがいたら申し訳ない。
とにかく、そんなアニメなど知る人間などいないこの世界では気にする必要のないことだ。
「フジ子は、何故こんな所を一人で歩いてたんだ?」
自己紹介を交わしたのち、たいした不自然さもなくクロスが切り出した。
よし、名前にはまったく疑問を持たれなかった!
は心の中でガッツポーズを決める。
もしかしたら、名前なんてどうだっていいだけかもしれないけど。
「見聞を広めるための旅をしているんです」
が控えめに微笑んで当たり障りのない返事をすれば、クロスは、ほお、と唸った。
ちなみにたちは現在中国語で会話しており、アレンははてなマークを浮かべてこちらを見ている。
「しかし、女の一人旅は危険だろう」
「ええ、まあ」
が曖昧に返事を返せば、クロスは酷く妖艶な笑みを浮かべた。
ぞくり、と妙な感覚がの背筋をはい上がる。
「これも何かの縁だ。次の目的地まで送っていってやろう」
「いえ、そんな、悪いですよ」
わたしの心臓に。
クロス・マリアンという名前をどこかで聞いたな、とが考えをめぐらせれば、それは元帥の名前だと気付いた。
どうやら放浪癖があるようで、かなりの間教団に帰ってないようだったが、のことを知らないとは言いきれない。
「なに、気にするな。美しい女を守るのは男の務めだ」
「は、はあ……」
も日本人であり、基本的に押しに弱い。
エクソシストになりたくないと言ったときのように自分の命を盾にすることもできなければ、助けてもらった手前おまえたちが怪しい人間だと叫ぶこともできない。
論理的な拒絶の理由が見つからない限り、状況打破は非常に難しように思われた。
そして。
「……それじゃあ、よろしくお願いします」
とりあえず、元帥が自分を知らないことを祈りつつ、は頭を下げた。





18 ←   → 20






2008.7.1