「コムイさん」
ファーストネームを呼ぶ。
振り向いた彼は、驚いたような顔でを見つめた。
しかし、やがてその表情を穏やかで優しげなものに変え、コムイはに微笑みかける。
もコムイに笑顔を返して、司令室に足を踏み入れた。
騙すならば本気で、とことんと。
裏に潜む感情になど、気付かれてはいけない。
自分を守ることができるのは、自分自身しかいないのだから。
「わたしがお手伝いできることはありますか?」
が小首を傾げてみれば、やはりコムイは嬉しそうに笑うのだった。





最果てへの片道切符





ってこえー」
「失礼な方ですね。わたしのどこが怖いっていうんです?」
本気で怒っているわけではない。
ふざけたようにが問い詰めてみれば、彼は歪んだ笑みを口元に浮かべた。
「あれで、いつかは切り捨てるつもりなんだろ?」
意地悪そうに笑ったラビにも笑い返す。
「嫌ですねぇ……そんなつもりはありませんよ。もともと、懐になんて入れてないんですから」
言い切ったに、やっぱり怖ぇ、とラビは呟いた。
それでも、ラビはそんなを咎めたりしない。
裏切られたと悲しんだり、嘘をつくのかと怒ったりしない。
彼と話しているのは、とても楽だ。
彼とはいつだって本音で話せるから。
本音で話すを責めたりしないから。
「……ねぇ、ラビさん」
「ん?」
「どうして神様は、人間にこんなことをさせるんでしょうか」
イノセンスなんていう力を与えて。
アクマと人間を戦わせて。
神様なら、千年伯爵くらい自分の力で倒せばいいのに。
ぼんやりと呟いたに、ラビがこちらを向く。
ラビはほんのしばらくの間黙って、それから嘲るような笑みを浮かべた。
「神様なんて関係ない。所詮、人間は戦うことが好きなのさ」
吐き捨てるように言ったラビを、は驚いて見つめる。
まさか、いつも陽気に振舞っている彼からそんな返答がくるとは思ってもみなかった。
彼が表立ってこんな感情を見せるなんてめずらしい。
「めずらしいですねぇ……」
ならいいかなーと思って」
が思ったまま言葉を口にすれば、にっこりと自然な笑顔が返ってきた。
おや、と思う。
「ほんと、めずらしい」
これは、少し自惚れてみるべきだろうか。
にとってラビが唯一本音に近い話をできる相手であるように、彼にとってのもまたそうなのだと。
「オレとは似てるからな」
「……そう、ですね」
するりと同意してみせるけれど、本当のことを言えば違う点はたくさんある。
ラビとが世界を見る視点は確かに似通っているだろう。
しかし、たちは決して同じではない。
同じには、なりえない。
少なくとも、ラビはこの世界で生まれて、この世界に様々なものを持っている。
生き死には知らぬが彼を生み落した親は確かにこの世界の人だろうし、彼という人格を形成させたのも間違いなくこの世界の環境だ。
そんな彼がこの世界のために戦うというなら、それは少しの憤りを感じたとしても、別段不自然な行為ではないだろう。
けれど、はこの世界に何も持っていなかった。
それどころか全て奪われていた。
家族も、友人も、歩んできた道も。
これまで意識したことはなかったけれど、それらひとつひとつはが大切に積み上げてきた人生そのものだった。
与えられたラビと、奪われた
こうして比べてしまえば決して同じだとは言えないだろう。
「……?」
「……なんでもありません」
日本語で呟いた言葉。
不思議そうにしたラビに、苦笑いをしながらは言う。
きっと納得なんてしてないはずだったけど、ラビはに何も聞いてこなかった。
この世界に来てしまった理由が、エクソシストであったからだというのなら。
エクソシストである限り、この世界に束縛されるというのなら。
死ねば、この世界から解放されるのだろうか。
酷くめんどくさがりな神様も、そうしたら諦めてくれるのだろうか。
死ぬ、なんて選択肢、考えてもいないけれど。
……けれど。
「どうしたら、わたしは解放してもらえるのでしょうね」
神頼みなんてしない。
できるはずも、ない。
この世界でを救えるのは、やはり自身でしかないのだ。





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20071217