がこの世界に来てから早半年。
ついに、この日がやってきてしまった。
「任務……ですか」
「神田君も一緒だから、心配いらないよ」
同じ日本人が一緒の方が気楽だろう?
ありがたいのかありがたくないのか判断に迷う気遣いに、は、はあ、と曖昧に返す。
ずっと戦わずにいられるとは少しも思っていなかったが、随分と急な話だ。
「行き先はドイツ。今すぐ準備しておいで」





最果てへの片道切符





「太陽の沈まない町?」
任務の事前調査書のページをめくりながら、はそう呟く。
太陽の沈まない国、というならハプスブルク家のスペイン王国などが浮かんでくるが、どうもそうではないらしい。
スペイン王国の場合、ある領土で太陽が沈んでいても別の場所(植民地等)では太陽が出ている、ということからそう呼ばれるのだ。
今回の行き先はドイツだし、どうも本当に太陽が沈まない町があるのだという。
「神田さん。そんなことってありえると思います?」
「ありえないから怪奇現象なんだろ。そういう所にはイノセンスがある可能性が高い」
「なるほど」
ふぅんと頷いて、は上げていた顔を調査書に戻す。
今回の任務のメインはあくまでイノセンスの有無の確認回収であって、アクマ破壊ではなかった。
初任務に向かうエクソシストに割り当てる仕事としては妥当だろう。
相方があまり新人のフォローには向いてなさそうな神田であることがいささか不安といえば不安だが。
もしかして黒の教団って教育に人手を割けないくらいものすごい人材不足なんだろうか?
「……なんだよ」
「いえ、別に」
思わずじっと見つめてしまった視線をは外す。
今更どうこう言ったって仕方がない。
神田は肉体プレーが得意で頭脳を使うのが苦手、は頭脳プレーが得意で肉体を使うのが苦手。
なんとか協力し合って解決するしかない。
……協力する姿勢を見せるのが彼には一番効果的だろう。
「ええ、大丈夫です、この、任務はまっとうしてみせますからね!」
「はあ?」
決意に拳を握る
なに当たり前のこと言ってるんだ? と呆れた表情を浮かべた神田に、はにっこりと微笑んでみせた。





たちが辿り着いたのは、本当に小さな町だった。
どこか閉鎖的な雰囲気を醸し出している町は、なんとなく他人を寄せ付けないものがある。
……実際、ファインダーは中に入ることができなかったらしい。
「太陽が沈まない、ねぇ……?」
たちの背景には、真っ赤な夕日。
少なくとも、1歩町の外に出れば太陽は沈むようである。
外から見る限り、町自体も夕日に照らされているように見えた。
本当に太陽が沈まないなんていう現象があるのだろうかと疑問に思った。
無いなら無い方がいいのだけど。
とりあえず、調査だけはちゃんとしなければいけないようだ。





と神田は、完全に太陽が沈むのを待って町に乗り込んだ。
エクソシストであるふたりだけがなんの問題も無く町の中に入ることができたことを考えると、どうやら今回の事件には本当にイノセンスが関わっているようである。
なんとも面倒臭い、とは溜息を吐く。
そして町の中に1歩足を踏み入れた瞬間、は咄嗟に目を瞑った。
「うわ、眩し……」
の隣では、口にこそ出さなかったものの神田が眩しそうに目を細めていた。
空を見上げれば、頂上で燦々と輝く太陽。
先程まで暗い夜闇の空間にいたせいで、目が付いていけなかったようだ。
「情報は本当だったようだな……」
腕で光を遮りつつ、神田が呟く。
は目に映る光景が信じられなくて、もう一度町の外に出て状況を確認しようとした。
が。
「あれ……?」
「どうした」
「町の外に出られない……」
「…………」
足を町の外に踏み出そうとする度に、見えないなにかに遮られる。
神田は難しそうに眉を寄せて、町の入り口を眺めた。
そして、小さな溜息をひとつ。
「どうやら、解決するまで外には出られないようだな」
「ええーっ」
そんなあ、と情けない声をあげるに、神田は訝しげな表情を浮かべた。
何をそんなに困ることがある、ストレートに聞いてきた神田に、今度はが訝しげな表情を返した。
「神田さん、事前調査書ちゃんと読みました?」
「読んだ」
「3ヶ月間、太陽が沈んでないんですよ?」
「それがなんだ」
「分からないんですか?」
「何が言いたい」
ああ、もう。おバカなんだから!
神田は鋭いようで、どこか抜けている。
だからみなさんにバカだバカだと(陰で)囁かれるのだ。
「この3ヶ月は、雨すら降っていないんです。この町は元々他の町との交流が少なくて、ほとんどの作物を自分たちの町で作ってきました」
「……おい、まさか」
作物、という名詞でようやくピンときたらしい。
は言葉を続けた。
「予想するに、この町は結構深刻な食糧難に悩まされているはずです」
一日中、それこそ24時間日が照っていて、雨も降らない。
農作物はまず育たないだろう。
町人は、まだいい。
家畜もいるだろうし、貯蔵分もある。
ご近所同士、助け合うということもあるだろう。
けれど、たちのような余所者はどうなる?
閉鎖的なこの町は、他の土地の者に厳しいことで有名だ。
「神田さん。早めに解決しないと、わたしたち、飢え死にすることになりますよ?」





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2008.1.26