掲載誌違うでしょ! いちばん最初に思い浮かんだつっこみだった。
どうやらキルシュ・ワイミーことワタリさんは近々日本にビルを建築する予定らしく、そのセキュリティの開発を友人である父に依頼しにきたらしい。あれか、例のセキュリティが厳しいキラ捜査本部。
なんつーひと友達に持ってるのよお父さん。発明家仲間?
ていうか事情知ってる人に子供の特権を使ってしまうなんて恥ずかしい(父は例外)。とっさに頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。
ワタリさんがこの世界に存在するということは、当然あのひとも存在するのだろう。世界の切り札とまで謳われる、名探偵Lも。
これじゃあ東の名探偵やら西の名探偵なんてヒヨっ子じゃないか、なんて考える。もしかして、この世界は探偵が顔を利かせているの?わたしが元居た世界じゃ探偵なんてせいぜい浮気調査とかしかしてなかったのに。……あとでネットサーフィンでもして調べよう。
無意識の哲学
結論から述べて、この件に関わる気はなかったのだ。わたしは“名探偵コナン”で手一杯だったし、善良な市民たるわたしは殺される心配もない。これからキラ事件捜査で命を落す方々には申し訳ないが、下手に関わって命を危険にさらすよりも、長き暗黒の世の後確実にやってくる終焉を選んだ。だって、自分の身がいちばんかわいいもの。そう、わたしは確かにそう思っていた。思って、いたのだ。なのに……。
「ちゃん、おなか空かない? アイスクリームでも買ってあげようか」
「ううん。大丈夫だよ、ライトお兄ちゃん」
なのに、なにゆえわたしはキラとおててを繋いでいるのでせうか……。さっぱり分かりません。ていうかこんな真冬にアイスクリームとか嫌がらせかよ。全国模試トップのくせしてアッタマ悪いな!
ちらり、とライトを盗み見ると、彼はなぜか気持ち悪いほど御機嫌だった。
実は、ライトに会うのはこれで3度目である。
出会いは、ちょっと恥ずかしいのであまり言いたくないのだが、至極単純に説明するのならば、迷子になっているところを救ってもらった。いや、ほら、この世界の土地勘ないしね、わたし。
んでもって2回目は盗聴器やら音量増幅機を自分で作ろうと思って材料をホームセンターに買いに行ったとき。ばったり出くわしちゃってビックリしたね。あのときライトは薄い板やら導線を買っていたから、たぶん机の二重底の仕掛けの材料を買いに来ていたのだろう。おっそろし!
そして問題は3回目である本日なんだけど……。実は、今からスペースランに行く予定なのである。あれ、なんでこんなことになったんだ? 原作ではかわいい同級生のオンナノコ誘ってたよね? あれか? 小学生のほうが遊園地が似合うからなのか?
原作の日付まできっちり覚えているわけではないので断言できないが、時期的に例のバスジャック事件の日だと考えてよさそうだ。おい、小学生にあんな恐怖体験させる気かよ。
待ち合わせ場所は原作では確かバス停だったが、わたしが小学生であることを考慮してか今回の待ち合わせ場所はバス停近くの公園であった。
一見仲良く手を繋ぎつつ、バス停に着くと、スペースランド行きのバスが来るまであと5分だった。ちなみに、それを逃すと次は30分後だ。
しかし最初にも述べたように、わたしはこの事件に関わる気などさらさら無かった。だからスペースランド行きのバスが遠くに見えたとき、わたしは困ったように口を開いた。
「ライトお兄ちゃん、わたしトイレに行きたい」
「え?」
「トイレ!」
「あ、うん……」
そのときのライトの顔は実に見物だった。予想外の事態に対する、困惑と動揺の表情。まさか、いたいけな子供にトイレを我慢しろとも言えまい。ワタリさんのときは思わぬ状況に恥ずかしい思いをしたが、ライトは何も知らない。存分に子供の特権を使える。
はやくー、とわたしはライトの手を引っ張って、目の前まで来ていたスペースランド行きのバスを残し、近くのコンビニまで走った。恐怖体験お断り!
しかしこのときわたしはすっかり忘れていた。ライトの跡をつけて捜査していた男の存在を。自分の身を守るための行動が、その男を含め13人の善良な命を救うことに繋がったことを。そして物語は大きく変化する。