なんか出来過ぎじゃないですかね。異世界に来た……いや、異世界から戻ってきたと思ったらコナンの世界。しかも体が縮んでしまっていて、小学校はコナン君たちと同じ。少年探偵団にまで入れてもらった。そして挙句の果てには……。
エヴァレットの書
「も、もう行っちゃったかと思ってたのに」
「待ってて、と言われましたからね。貴方のような美しい女性の頼みは断れません」
にこり、と悩殺スマイル。ぬおお……! その笑顔は反則だって! カッコよすぎだ……! しかしこんなところで自分の心内を表に出したら、わたしはただの変態だ。わたしはつとめて冷静に彼を見つめて、口を開いた。
「傷、見せて」
「え……?」
少し驚いたような顔のキッド。そんなに予想外のことであったろうか。半ば強引にわたしはキッドの手を取って、テラスにあるテーブルの席に座らせる。わたしはキッドの反対側に座った。そして、袖が赤く染まっている方の服をそっと捲り上げる。
「……銃跡」
傷口を見て、ぼそっと呟く。キッドは一瞬ビクリと肩を揺らした。そしてほんのしばらくの間気まずそうにした後、苦笑を浮かべる。
「私には敵が多いですからね」
「まあ泥棒だもんね」
軽く返すが、わたしの心境は複雑だった。なぜ彼が怪盗なんていうものをやっているか知っていたから。銃によって付けられた傷が痛々しい。彼は今一体何を考えているのだろう。
わたしは脱脂綿に消毒液を染み込ませて、べたっと彼の傷口に付ける。
「いっ……!?」
よほど痛かったらしい。彼は小さく悲鳴をあげた。
「……ぷっ」
優雅に振舞っていたキッドのそんな様子がおかしくて、わたしは笑う。彼は少し情けない顔をしてわたしを見た。それがまたおかしくて、最終的にわたしは大笑いしてしまった。怪盗ではない、普段の彼の姿を垣間見た気がした。
「……っふふ、キッドって意外と子供みたいなんだね」
笑いが収まってきたわたしは、キッドに言った。
「…………KIDですから」
むすっとして言うのがおかしくて、わたしは再び笑う。
「キッドって本当は若いでしょう? とてもおじさまには見えない」
「さあ、どうでしょう?」
「16、7くらい?」
「……………」
本当は知ってるけど。
「まあ、あんまり聞かないでおいてあげる」
キッドがすっかり黙り込んでしまったので、わたしは苦笑しながら言った。そして怪我の治療を続ける。
「……助かります」
キッドはそれだけ言った。なるべく彼が痛い思いをしないように、わたしは優しくかれの傷口に薬を塗る。そっとガーゼを乗せて、丁寧に包帯を巻いた。
「これでよし!」
捲り上げていた彼の服の袖を、捲くったときと同じようにそっと下ろす。
「お手数おかけしてすみません。ありがとうございました」
怪盗は恭しく頭を下げる。
「どういたしまして」
わたしはふふっと笑った。
「警察も撒けたようですし、私はそろそろ失礼させていただきますね」
「うん。気を付けて」
キッドはすっと立ち上がり、テラスの手すりのところまで歩いていった。「よっ」と軽く声を出して、その上に立つ。グライダーをばっと広げて、彼は飛び立とうとしていた。
「……ねぇ。また会える?」
「……あなたが望むのなら」
聞くと、キッドはこちらを振り返ってわたしに微笑んだ。自分の頬が緩むのが分かる。
「それではお嬢さん、またお会いしましょう」
言うと同時に、彼は夜の空へと飛び立っていった。