「ただいまー」
「お帰りなさいませ。お嬢様」
家に帰ると、わたしを出迎えてくれたのは執事の梶岡だった。梶岡はわたしからランドセルを受け取ろうとするが、わたしはやんわりと断って2階にある自室へ続く階段に足を掛ける。
「お嬢様」
梶岡がわたしを呼び止めた。わたしは、ん? と階段に足を掛けたまま振り返る。
「旦那様も奥様もリビングに居られますよ」
「!」
(それを早く言ってよ!)
梶岡の言葉に、わたしはバタバタと2階に駆け上がる。自分の部屋にランドセルを投げ込み、そして登るときと同じようにバタバタと階段を下りてリビングに向かった。
エヴァレットの書
――ばたんっ!
「お母さん!」
「あら、。お帰りなさい。早かったわねぇ……」
そりゃ小学生だからね。しかし直接本人にそんなツッコミを入れる前に、わたしの耳には別の人物の声が入ってきた。
「ー!! 逢いたかったよー!!」
「へ?」
声のした方に視線を向けると、見たことの無い男の人が立っていた。見た目はダンディなおじさまなのだが、がばっと両手を広げ、目には涙を溜めている。容姿と行動が合っていない。何、この変にテンションの高い男の人。旦那様も奥様もリビングに居られますよ、という先ほどの梶岡の言葉が頭をよぎる。……ま、まさか。もしかしてもしかしてもしかしなくても……?!
「おとう……さん……?」
「ああ、! パパのことを覚えていてくれたんだね!」
――がばっ
「ぐえ……!」
言葉と共に、タックルをかまされ、これでもか! ってくらいにぎゅうっと抱きしめられる。……く、苦しい。
「もう。あなたったら。はしゃいじゃって」
母の声が聞こえる。ああ。やっぱりこのひとがわたしの父親なんだ……!!
(っていうか、覚えてたわけじゃねぇ………!)
それから数分後、「あなた。そろそろ放してあげないとが窒息死しそうよ」という母の言葉で、ようやくわたしは父の熱い抱擁から解放された。
「そういえば。お母さんは若返って無いんだね?」
ようやく父が落ち着いたところで、わたしは思ったことを聞いてみた。何故わたしだけが若返って、お母さんは若返らなかったのだろう。母が若返っていないのなら何故、わたしが若返ってしまうことを予想して子供服を用意していたんだろう。考えれば考えるほど謎だ。
「ああ、そのことなんだけど……」
母はそう言うと、父と顔を見合わせた。
「?」
「私も、ここについてすぐは今より10歳若い姿だったのよ」
「え?」
じゃあなんで戻れたの? 声に出さなくてもわたしの聞きたいことは伝わったらしく、母は嬉々と目を輝かせ、逆に父は渋い顔を作った。え、ちょ、何なの。その行動。
「あの、」
一体何なの? そう聞こうとした瞬間、突然父が叫んだ。
「!!」
「はいぃぃ?!」
わたしは思わず飛び上がって返事をする。
「うう……!! いくら元の姿に戻るためとはいえ、娘が他の男に取られるなんてパパは嫌だぞ〜〜!!」
は?
他の男に取られる?
「あなた、泣かないで。あなたの気持ちは分らなくも無いわ。あなたはの成長を7歳までしか見届けてないんだもの」
言葉の内容こそ父を慰めるものだが、母の表情は嬉々としている。……あの、状況が理解できないんですけど。尚も母は言葉を続けた。
「……でも、のことも考えてあげて? は本当はもう17歳なのよ?」
「うう……でも! でも! パパは認めないぞぉぉー!」
父はそう叫ぶと、その場で泣き崩れてしまった。……お、男泣き……!!
(い、一体なんだっていうんだ……!?)
母はふうと溜息をつくと(でも顔は嬉しそう)、わたしの方を向いた。
「……まったく。困ったパパね。仕方ないわ。私がに話しましょう。……、よく聞くのよ?」
「う、うん」
わたしはつばを飲んだ。母が口を開く。
「実はね……」