――キーンコーンカーンコーン
――カーンコーンカーンコーン

 放課後、わたしはようやく元太君から少年探偵団を紹介してもらえることになった。本当なら、少年探偵団のみんなのことは休み時間に紹介してもらえるはずだったのだけれど、周りがそれを許してくれなかった。みんな転校生が物珍しいのか、その貴重な休み時間、わたしの周りには大きな人集りができてしまっていて、とてもじゃないけど少年探偵団を紹介してもらえるような状況ではなかったのだ。人集りできてしまうのは、ある程度覚悟していた。が。何処から来たの? という質問には困った困った。この世界の地名を、わたしは知らない。コナンの漫画を読む限り、東京以外はそのままの地名だとは思うのだけれど。ほとんどの質問に曖昧に答えていた甲斐があったのか、放課後になってようやくわたしの周りから少年探偵団以外の人間が居なくなった。



エヴァレットの書




「へー! じゃあちゃんって外国から来たんだ!」
「う、うん。まあね……」
 自分が何処から来たのか、ずっと言わないのも怪しい。結局わたしは自分が外国からきたのだということにした。まあ、あながち嘘でもないしね。
 目の前にいる歩美ちゃんは、目を輝かせてわたしに話しかける。
「じゃあさ。ちゃんって英語ペラペラ?」
「ペラペラってほどではないけど」
 日常会話くらいなら。そう言うと、歩美ちゃんはそれでも十分凄いよ! と言ってにこりと笑った。なんかこの子、漫画やアニメで見るよりずっと可愛いな。
「親の都合で転校してきたって言ってましたけど、ご両親はどんな仕事をなさってるんですか?」
「鰻屋か?」
 光彦君と元太君がわたしに聞いた。これだから余計な自己紹介はしたくなかったんだよ。先生め……!でもまあ先生も悪気があったわけじゃないだろうからなぁ。
「残念ながら鰻屋では無いんだなぁ。一応科学者、だと思う」
 元太君はちぇっ! と残念そうに言い、光彦君カッコイイですねぇ…! と目を輝かせた。
 てゆうかさっきからわたし一方的に質問されてない?わたしからも質問していい? というと、みんなはもちろん! と笑顔で答えた。
「さっき元太君から聞いたんだけどさ、少年探偵団って何?」
 もちろんわたしは“名探偵コナン”を愛読していたのから、少年探偵団についてはよく知っている。しかし、教えてもらっていないのに知っているというのは怪しい。誰からも聞いていないはずの事をうっかり言ってしまったら大変だ。わたしはボロを出す前に、少年探偵団について聞いておくことにした。予想通りというかなんというか、待ってました! とばかりにみんなは元々笑顔だった顔をさらに輝かせて話し始めた。
「みんなから依頼される難事件を解決するために日夜活動してるんです!」
「オレの名推理で数々の事件を解決してきたんだ」
「元太君じゃなくて僕です!」
「もー。2人とも! いっつも推理をしているのはコナン君じゃない!」
 歩美ちゃんがそう言ったとき、わたしはやっとまともにコナン君の顔を見ることができた。というのも、コナン君は今まであまり口を開かず状況を見ていたから、話しかけにくかったのと同時に顔を見るのもなんとなく怖かったのだ。何が怖かったのか、と聞かれれば悩むところだけど……。あえて言うなら、彼の洞察力かもしれない。
「へぇ〜! コナン君すごいんだね」
 とにかく今はそんな雰囲気はまったくなくて、わたしはコナン君に普通に話しかけることができた。とりあえず子供らしくにっこりと笑って相手を褒めてみる。“褒める”という行為は、より早く相手と仲良くなるポイントだ。
「そ、そんなことないよ……」
 案の定、照れたようにコナン君が言う。なんだかんだ言っても嬉しそうだ。そういえば、かの名探偵ホームズも自分の推理力を褒められると喜ぶんだっけ。名前を聞いたときを除けば、コナン君とは初めてのまともな会話だ。
「ねぇねぇ! 良かったらちゃんも少年探偵団に入らない?」
「え? わたしが?」
 歩美ちゃんの言葉に、わたしは驚いた。正直、嬉しい。小学1年生として暮らさなければいけないのは苦痛以外のなにものでもないけれど、少年探偵団に入れるのならば話は別だ。“江戸川コナン”として生活している工藤君(あえて“工藤君”と呼ぶなのに慣れておこう。誰かの前でうっかり“新一”とか言ってしまったら大変だ。おまえ何様だよみたいな?)や“灰原哀”として生活している宮野さんには悪いけど、わたしは黒の組織に狙われているわけでもない。……あれ? そういえば灰原さんはまだ転校してきてないの?
「ねえ。少年探偵団ってここに居るみんなだけ?」
「うん。そうだよ」
 歩美ちゃんが答えた。じゃあ今っていつ頃なんだろう。そういえば日付聞いてくるの忘れてたな……。流石にいまここで「今日って何月何日?」って聞いたら変に思われるだろうし。まあ家に帰ってから聞けばいいか。とりあえず今は……。
「わたしも……仲間に入っていいの?」
 先程の歩美ちゃんのお誘いに対して、わたしはあくまで子供らしく、小首を傾げて言う。普段の自分なら考えられない。うわ、鳥肌立ってきた。
「もちろんだよ! わたし、女の子が増えて嬉しいな!」
 本当に嬉しそうに言うものだから、わたしもつられて笑顔になった。
「よろしくおねがいしますね! さん!」
 と、光彦君。
「よろしくな、!」
 元太君。
「よろしく」
 そしてコナン君。
「みんな、よろしくね!」
 とりあえず、退屈はしなそうだな。
 ここは間違いなく“名探偵コナン”の世界。転校初日、わたしの人生は波乱の幕を上げた。



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2006.6.6