あれから、新たに7個の暗号が見付かった。コナン君がうんうんと唸りながら眺めている、暗号を書き並べたメモを、わたしは彼の背後からひょっこり盗み見る。現段階では、その暗号がそれぞれひらがなに対応していることまで突き止めているが、肝心の宝の在処は分かっていなかった。暗号で残されたメッセージの中にヒントがあるのはたしかだと、コナン君は現在そのメッセージを解読中なのである。
「コラ! 君も少しは手伝わんか! 部屋の真ん中でアグラなんぞかきおって」
 ひたすら暗号に勤しんでいたコナン君に、博士の喝が入った。
「なあ博士。確かトランプも、この部屋にあったっていってたよな?」
 しかし当の本人はそんなものどこ吹く風、博士のお叱りなどまるで気にした様子もなくそう尋ねる。
「ああ、もともと時計の真下に置いてあったのを、ワシが利用したんじゃ」
「…………」
 わずかな言葉を博士と交わし、何かに気付いたらしいコナン君が自分の手帳を取出して、そこに部屋の見取り図を書き始めたところで、わたしはそっと彼の傍を離れた。さらに、みんなが集まっている部屋もこっそりと抜け出す。コナン君なら、確実に真実に辿り着くので心配いらない。だから、わたしはわたしのできることをしようと思う。



エヴァレットの書


 わたしの記憶が確かなら、このあとコナン君はこの別荘の天井裏にある隠し部屋を見付けだすはずである。そこにあるのは白骨化した老人の遺体と、20ドル札の原版。偽札造りのために丁寧に掘られたそれは、傍の白骨遺体の老人が、とある人物に脅されて作っていたものだ。
 そして、その老人を脅していたとある人物が、今この別荘内に潜んでいる。その人物はコナン君たちがが暗号を解読する様子を影に隠れて伺い、コナン君たちが目的の原版を見付けたらそれを横取りしようと虎視眈々狙っているのだ。
「名前、なんだったかなー……」
 なにせ漫画には事件のエピソードがたくさんあるので、犯人の名前などよっぽど気に入ったとかじゃないと覚えていない。言われれば、ああ! ってなると思うんだけど。
「ま、いっか」
 べつに名前まで知ってる必要はない。
 別荘内のトイレに籠もり、鍵をしっかりとかけたわたしは携帯電話を耳にあてた。ワンコールで相手に繋がり、わたしは口を開く。
「あの、家の中に拳銃を持った不審者がいるんです! 助けて下さい!」
 携帯のディスプレイに表示されている相手の電話番号は、110。



 たまたま近辺を巡回していたパトカーがあったらしい。警察は、10分ほどでこの別荘にやってきた。くれぐれもサイレンを鳴らさないで来てほしいと頼んだわたしは、別荘の入り口で警察を待って現場に案内する。
「警察だ! 神妙にしろ!」
 2人の警察官が問題の屋根裏部屋に乗り込んだとき、犯人はすでにコナン君にのされて縄で縛られていた。ぱちくりと目を瞬かせた警察官たちは顔を見合わせる。
 わたしはその後ろからひょこっと顔を出して、部屋の中の様子を確認した。うわあ、犯人の顔に大きな青アザできてる。痛そう……。
 傍らにドル札の原版が落ちていることから、おそらくコナン君がこれを犯人に向かって蹴ったのだと思われる。サッカーボールを蹴っただけでゴールに穴を空けてしまうその威力を考えれば、金属製の原版の痛みはどれほどか。
「あ! ちゃん!」
 突然、名前を叫ばれた。何事かと思って顔をあげると、歩美ちゃんの心配そうな表情。わたしは首を傾げた。
「よかった、ちゃん、無事だったんだね。姿が見えないから心配してたの」
「え? ああ、ごめん。わたしトイレに行ってて……」
 ちょうどみんなを探してたの。彼女の表情の理由を理解するとともに、わたしはとっさに言い繕った。嘘は言ってないよ、嘘は。警察に電話をするためにではあるが、トイレに行ってたのは事実である。
 ほんとによかったぁ、と涙目にさえなっている歩美ちゃんに、僅かに苦笑するわたし。心配かけてごめんね、と謝ると、歩美ちゃんは首を横に振って、無事ならいいの、と返してくれた。うわああ、めっちゃいい子! 思わず抱き締めてあげたい衝動にかられながらそれを押さえて、他の子供たちにも目をやる。白骨化した遺体を目撃したうえに銃まで向けられたのだからショックを受けているのではないだろうか、と心配したが、子供たちは案外タフなようで平気そうな顔をしていた。
 ほっと一安心して視線をずらしたところで、コナン君とばっちり目が合う。思わず固まった。コナン君、ものすごーく胡散臭そうにこちらを見ていらっしゃいます。
 不自然に顔をそらして、さっさと部屋を出ていこうとすると、がっちりと肩を掴まれた。おそるおそる振り替えれば、コナンは満面の笑み。
ちゃん、明日ヒマ?」
 可愛らしく尋ねるその姿が、なんだか無性に恐ろしかった。



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2008.10.26