そんなこんなで、先日博士が連れていってくれると言っていたお出かけの日がやってきた。
「ねえハカセー? ホントにこれから行く洋館に、宝物が隠されてるのー?」
「ああザックザクじゃ!! 君らが知恵をしぼって、見つける事ができたらの話じゃがのー?」
どうやら今回のお出かけの目的は、洋館での宝物探しらしい。その洋館は博士の伯父さんのものだったんだとか。阿笠博士と歩美ちゃんがそんなのんきな会話をしているのを横に、わたしはこれから起こることを想像して黙り込んでいた。阿笠博士プラス少年探偵団という組み合わせの時点でなんとなく嫌な予感はしていたが、まさか本当に事件と重なってしまうとは。……いや、まだ事件は起こっていない。しかし、わたしの予想が正しければ、確かに事件は起こるだろう。だって少年探偵団が宝探しに洋館に行く話、読んだことあるもの。
「ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
わたしの様子に気付いた歩美ちゃんが、心配そうに顔を覗きこんできた。ああ、気を遣わせるつもりじゃなかったのに。わたしは歩美ちゃんの方に顔を向け、頑張って笑顔を作ってみせた。
「うん、平気。ちょっとだけ車酔いしちゃったみたい」
歩美ちゃんはそれでもやはり心配そうな表情で、わたしたちのやりとりを聞いていた博士が、どうしても辛くなったらすぐに言うんじゃよ、とやはり心配そうな顔で言った。
エヴァレットの書
(まあ、無事に済むとは思うけどね)
原作では誰も被害にはあわなかったはずだし。死体を見る覚悟くらいは、必要そうだが。
洋館に着く頃には、わたしはだいぶ冷静さを取り戻していた。正直危険の芽は摘めるうちに摘みたいところだが、子供ひとりができることなんてたかが知れている。このまま流れに任せれば、コナン君がなんとかしてくれるだろう。
「よーし、探せー!!」
屋敷に着くなりどたばたと辺りを引っ掻き回し始めた子供たちを見て、わたしは思わず苦笑いを浮かべた。
捜査の基本は現場の保存である。物を動かすことによって手掛かりを消してしまう恐れがあるからだ。
わたしは読んだことのある原作を思い浮かべ、さっと床に目を走らせた。コナン君が立っているあたりの床に、真新しい傷がある。それはどうやら文字のようだった。
“モザリサワソデル”
刻んである文字がおそらく原作と同じ(詳しくなんて覚えているわけがない)であることを確認してから、今度は不自然な時間で止まっている壁掛け時計に目を向ける。時計の短針と長針は、ぴたりと重なって6を指していた。その“矢印”に従って真下を見れば、そこには小さな棚の上に散らばったトランプ。その中に、スペードのエースが画鋲で固定されているのを見つけた。さらにその矢印をたどればチェス盤。駒が矢印に配置されてるのを見て、それが指し示す部屋に向かった。この部屋まで来てしまえば、もう宝物の場所は分かっている。
ドア正面、机のすぐ横の床に落ちていた飛行機のオモチャに一瞥くれてから、わたしはベッドの下を覗いた。そこには大きな箱。中には阿笠博士が隠したオモチャという宝がたくさん入っているのだろう。だが、その箱の中の状態を想像して暗い気持ちになった。はあ、と溜息を吐いたところで背後から声がかかる。
「宝物は見付かったか? “ちゃん”」
「……コナン君」
なんだろう、その含みのある呼び方は。わたしが引きつった表情で振り返ると、コナン君は満面の笑みを浮かべていた。その胡散臭い笑顔を見て、わたしはほとんど無意識のうちに一歩後退る。
「一応、見つけたけど、」
なんとか言葉を紡いで、おそるおそるコナン君と目を合わせた。コナン君は、そうか、と胡散臭い笑顔を浮かべたまま答えてこちらに歩み寄ってくる。思わず身構えたわたしだったが、コナン君はわたしの横を通り過ぎ、屈んでベッドの下を覗き込んだ。
「あーあ。こんな見付かりやすいところに」
子供たち相手なんだからその程度でいいのではないだろうか。
そんなわたしの考えをよそに、コナン君はどこから持ってきたのか布を箱に被せ、オモチャの隠してある宝箱をさらにベッドの奥に押し込んだ。
自分はどう行動したものかと思い悩んでいると、作業を終えたコナン君がわたしの手を掴んだ。
「ほら、あいつらに気付かれる前にさっさと戻るぞ」
そして彼はわたしの手を引いて元居た部屋へと歩きだす。あいつら、とはわたしとコナン君以外の少年探偵団のことだろう。少年探偵団のひとりであるわたしが既に隠された宝を見つけたというのに、彼は他の少年探偵団に見つけさせるため、それを無かったことにした。また、わたしもそれを受け入れた。わたしが普通の子供であるのなら、それに文句言っただろう。しかしわたしはそうするタイミングを失ってしまっていたし、宝を見つけてすぐに叫ばなかった時点で、無意味な行動だ。
「ねえ、何も聞かないの?」
不審に思っていないはずがない彼に、そう尋ねた。
「聞かないように約束させたのはオメーだろ」
呆れたようなコナン君の声。それもそうだ、とわたしは苦笑した。