「ふああぁ……ねむ…………」
結局、白馬君に事情を説明するのにかなりの時間をかけてしまった。実際にこの幼い姿に戻るまで信じないとか言いだすし……。睡眠不足でぶっ倒れそう。ときどき飛びそうになる意識をなんとか引き戻し、わたしは学校までの道程を歩く。
あーあ。高校の身体なら完徹2日くらいは平気なんだけどなー。子供の身体って不便。再び大きなあくびをひとつして、わたしは空を仰ぎ見た。
エヴァレットの書
「お出かけ?」
「そう! 博士が今度連れてってくれるって!」
歩美ちゃんの嬉しそうな声に、わたしは首を傾げてみせた。
「……博士?」
「そういえばちゃんは知らないんでしたっけ?」
しまった! というように光彦君がいう。や、知ってるけどね。一方的に。しかし会ったことのない彼を知ってるとは言えずに、それって誰? とわたしは聞いた。
「誰っていわれると難しいよなー」
頭の後ろで手を組ながら元太君。
「すごい発明いっぱいしてるんだよー!」
というのは歩美ちゃん。
「ギャグはものすごーく寒いですけどね」
光彦君がにやりと笑いながら言う。最後の一言に、コナン君が苦笑いを浮かべた。
「ま、オレらのスポンサーみたいなモンだよ」
「ふうん?」
明らかに説明不足な彼らに、とりあえず曖昧な返事を返す。まだ小学生1年生だしね。この説明でも仕方ないよね。そのぶんコナン君がしっかりしろよ、なんて思ってないよ。……思ってないよ? うふふふふ。
睡眠不足であきらかにぶっ飛んでいたわたしであったが、思考の中にまで突っ込みを入れてくれるひとなどいるはずもなく。
「博士に会ったことがないということは、当然探偵バッヂも持ってないということですよね?」
首を捻りながら、光彦君が言った。
「あ。そういやそうだよな」
その言葉にはっとしたように、元太君が同意する。
「ねえねえ! じゃあ今日の放課後博士の家にちゃん連れてってあげようよ!」
「いいですねえ! それ!」
歩美ちゃんの意見に、光彦君が真っ先に同意した。元太君も異論はないようで。
「よーし。じゃあ今日の放課後はを博士ん家に連れてくぞ!」
「「おー!!」」
仕切った彼に、光彦君と歩美ちゃんが高々と拳を上げた。そんな彼らの様子に、コナン君だけがヤレヤレと疲れたような表情を浮かべた。
その可能性を忘れていたのは、仕方がないと思う。だって、親の交友関係なんてわたしが知るはずもないでしょ?
放課後になって約束通り博士の家まで連れてきてもらったわたしは、彼の一言に固まった。
「……君?」
唖然としたような、博士の声。ただ、名前を呼ばれただけ。そう、それだけなのだ。けれども、自己紹介を一切していない時点で名前を呼ばれるというのは衝撃的だった。
「ちゃん、博士と知り合い?」
その場で凍り付いていたわたしは、歩美ちゃんの台詞ではっとした。頭の中でいくつもの仮設が浮かんでは消え、ひとつの有力なものに辿り着く。次の瞬間、わたしは行動を起こしていた。
つかつかと博士に歩み寄り、彼の着ていた白衣をガシッと掴む。ムリヤリ部屋の隅まで引っ張っていき、わたしは声をひそめた。
「もしかして、父の知り合いですか」
「おお、やはり怜恃君の所のお嬢さんか。懐かしいのう。しかし、10年前と姿が変わってないな……」
怜恃、とはわたしの父の名である。彼のその言葉で、わたしは確信した。
「それにはふかぁーい事情がありまして」
「深い事情?」
博士は首を傾げた。
「今は時間がないので、今度説明します。この場は知り合いの娘ってことで適当に合わせてください。年齢と外見の話なんてしちゃだめですよ?」
戸惑いながらも、博士はわたしに頷いてみせた。わたしはにこりと笑顔をつくろって、少年探偵団のみんなのほうを向く。
「博士ね、お父さんの知り合いだったみたい! 小さい頃に会ったことがあるんだって!」
「あ、そういえばちゃんのお父さん科学者だっていってましたもんね!」
「うん、びっくりしちゃった!」
まさかこんな所でかつて話した父の職業の話が役立つとは。
疑うことなんてまったく知らないように光彦君が返事をしてくれて、わたしは笑顔になった。うん、小学生って純粋でかわいいね。単純とか思っててごめん。
みんなできゃいきゃいと盛り上がりながら、コナン君だけが不審そうにこちらを見ていたのを、わたしは気付かなかったことにした。