何か変だ。オレが彼女に対してそんな感想を持ったのは席替えがあったあの日、自習で数学のプリントをやっているときだった。小学1年生のくせにあんなに重い溜息をついていたのも気になる点ではあるが、疑問を持ったきっかけになったのはもっと別な点。

――ほ、ほんとうになんでもないよ! 別に算数の問題が解けないとかで悩んでるわけじゃないから!

 確かに、彼女は嘘をついていなかった……が、だからこそ不自然なあの台詞。あきらかに何か意図があったとしか思えない。そのうえ、わりと本気モードで話していたオレと対等に渡り合えるほど口達者。……、お前は一体何者だ。



エヴァレットの書




そして彼の疑問は、更に深まることとなる。



「……怪盗1412号?」
「そう。鈴木財閥に予告状が届いたらしいわよ〜」
 彼の名前を聞いて思わず素っ頓狂な声を出したわたしに、母はこともなさげに答えた。……え。怪盗1412号ってキッドのことだよね? ていうか鈴木財閥に予告状って……。
「なんでお母さんがそんなこと知ってるの?」
 不思議そうに聞くと、お母さんは「あら」と声を出した。
「鈴木財閥といえば、今度の60周年記念船上パーティーにも招待されているじゃない」
「…………は?」
 そんなの初耳だ。
「えっ、ちょっ、お母さん、どういうこと?」
「話してなかったかしら」
「話してないよ!」
 とぼけたように言う母に、わたしはすかさず返した。
「じゃあ今話すわ。今度、鈴木財閥60周年記念船上パーティーがあるの。それにうちも招待されているわ。、もちろんあなたも参加よ」
 母はにこにこと笑いながら言った。……この人は!! どうしてこんな重要なことをもっと早く言わないんだ! ……まあ確かに『名探偵コナン』という作品がどういうものか知らない母にとっては、重要でもないかもしれない。考えて、わたしはふぅと溜息をついた。責めるのはお門違いか。
 それにしても……鈴木財閥って園子の家だよね。それに船上パーティーと怪盗キッドってアレじゃない! 16巻の! ていうかうちと鈴木財閥ってどういう関係よ?
家と鈴木家は昔から交流があるのよー」
 まるでわたしの心を読んだように、母が言った。
「昔からの交流?」
 わたしは聞き返す。
「ええ、そう。私とお父さんは科学者だから、色々と協力する面があるのよ」
「へ、へぇー……」
 微妙な返事をわたしは返す。そういえばお母さんたち科学者だったんだっけ。鈴木財閥と交流があるとか、なんかもうなんでもアリだな。
 何故かこっちの世界に来てから『名探偵コナン』に出てくるキャラと何らかの関係を持つ率が高い気がする……これは偶然だろうか。
 船上パーティーに、怪盗キッドの予告状か。……ん? 待てよ?
「お母さん、パーティーっていつ?」
「? 来月だけど」
「!!」
 それじゃあ、パーティーに現れる前に、一度偵察をしにくる? わたしはばっとカレンダーを見た。
もしかして! …………今夜だ。いや、正確には明日の朝。原作どおりならば、怪盗キッドは偵察のために杯戸シティホテルの屋上に現れる。
「…………お母さん」
「なあに?」
「鈴木財閥に届いた予告状ってどんなのか分かる?」
「さあ……詳しいことは知らないけれど、なんでも幸運を呼ぶ真珠……ブラックスターっていったかしら? それを盗むとか」
 米花博物館で行われている、世界中の名のある宝石を集めた展覧会。そこに並ぶ、鈴木財閥の“漆黒の星”しかしまあ実際に展示されるのは偽物だ。けれど間違いない。彼は必ず現れる。
 ……気付かれないようにこっそり見物に行こう。小さく拳を握ったわたしを、母は不思議そうに見ていた。



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2007.2.2