「……で、何でオレは呼び出し食らってるわけ?」
「あんたには責任があるから」
昼休みの屋上の片隅で、快斗を前には頬を膨らませて言った。





抗えない本音





「まずは弁明から聞こうか黒羽被告」
「何のことかわっかりませーん」
空っとぼけたままパンを口に運ぼうとする快斗に、が声を荒げる。
「あのDVDのことっ!」
………そう。
『ホラーだからひとりで見たくない』と白馬とともに見たDVD。
帰宅後にネットで検索してみたら、海外では割と有名らしいラブストーリーだった。
快斗に限って、ホラーと間違えて手渡すことなどありえない。
「……まあ、わざとだよな、普通に考えて」
「わああっさり自白した」
ため息をついて、どさりと腰を下ろす。手にした紙パックのジュースは、滴る水滴でふやけ気味だ。
「でもまあ、オメーにとっちゃある意味ホラーより怖かったんじゃねえか?」
そう言われれば、ぐっと言葉に詰まる。
…まさに、その通りだったから。
「お節介、って言われたらそれまでだけどな。オレなりに思うところあっての行動だ」
ごくん、と口に入っていたパンを飲み下すと、快斗はに向き直った。
「結局のところ、もう答えは出てんだろ?…ただ、それを認めたくない…いや、違うな。そうだな…」

「受け入れるのが怖いだけだ」

 ど く ん 、 と。
瞬間、心臓の奥深くが、大きな拍動を持つ。
「………………っ、私、は…」
私は。
私はどうしたい?
私はどう考えている?
私は、何を怖がっている?
「慌てんなよ」
ぽんぽん、と優しく頭を撫でられ、は黙り込んだ。
何か声を発したら、同時に涙も零れてしまいそうだったから。
「オメーのペースでゆっくり行け。あいつはちゃんと待ってるさ」
じゃあ先に戻ってるぜ、なんて言いながら快斗はいなくなってしまって。
(受け入れるのが、怖い……)
この感情を。
そう、私はとっくにわかっているはずなのに。
あとはそれを、探に伝えればいいだけだというのに。
「……誰かを想うということは、拒絶の恐怖と戦うということよ」
不意に降ってきた声に、弾かれたように上を向く。
一瞬前まで誰もいなかったはずのそこには、いつの間にか紅子が立っていた。
「あ…紅子、ちゃん」
言われた意味がわからず、それを名を呼ぶことで問う。
紅子は腰を下ろすことはせず、髪を風になびくままにしながら繰り返した。
「あなたが怖れていることよ。…想うことは誰にでもできる。でも、想われることは絶対ではない。それが大切な人になら尚更、想って欲しいと想う。相手に想われないことが怖い。…人の心は、操れるものではないから。つまりはそういうことよ」
どこか遠くを、自分を通して他の誰かを見ているような…そんな瞳。
「……すごく、可愛いわよ?」
「へ!?」
唐突な紅子の台詞に、が頓狂な声を出す。
ふふ、なんて微笑を浮かべて、「あとは自分で考えなさい」と優しい、けれどそれ以上の問いかけは許さない言葉を残して。
紅子が立ち去り、は今度こそひとりになった。
「私が、怖がっていること…」
それは、相手を想うが故に想われない恐怖。
「………………よしっ!」
ぱん、と頬を叩いて。
予鈴の響く屋上を背に、は階段を一段抜かしで駆け下りた。





「…本当に、お節介な人たちばかりだね」
が背にしていた壁の反対の壁に寄りかかりながら、白馬は嘆息した。
「人気者の彼女を持つと、大変よ?」
「…今でも十分、大変ですよ」
からかうような紅子の言葉に、白馬は苦笑して返した。





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20091014