『で?』
「……お言葉だが、“で”とはどういう意味かな」
『だーかーら、ヤったのかヤらなかったのかっつー…』
「ああ、明日の予告日が心の底から楽しみだなあ。どんな罠を張り巡らそうかな」
『………オレはキッドじゃないけど、その……すみません………』
棄てきれないもの
(…全く)
ピ、と終話ボタンを押してため息をつく。
珍しく何の電話かと思えば、「とはどうなったんだ」と来たもんだ。
(まあ…あんな状態で飛び出してくれば、確かに気にはなる、か…)
別にデバガメするつもりはなく、青子に聞けといわれたからだと言われて納得した。
自分やに直接は尋ねにくい、だが気になる―…というのはわかるが。
「…さり気なく、とかじゃないんだもんなあ」
くす、と笑みがこぼれた。
直球で聞かれたら、こちらとしても誤魔化しようもない。
何も言うようなことはなく、喧嘩をしているわけでもない。
そう言うと、ほっとしたような、安心したような声が「そうか」と返ってきた。
が皆に大切に思われていることが嬉しくもあり、複雑でもある。
……また、汚い感情。
『まあ、オレとしては楽しみだけどな』
快斗の声が、脳裏で甦る。
ケケッ、と楽しそうに笑ってから、こう続けてきた。
『あの白馬探が、どこまでみっともなくなっていくのか、ってな』
余計なお世話だと返せば、そうだろうともなんて言われて。
……正直、悔しかった。
まさかそこまで見抜かれているとは、思わなかったから。
(探偵同様、怪盗も観察眼には優れているのか…?)
そんなどうしようもないことを追求して、考えなければならないことを、頭の隅に追いやって。
そうしている自分に、こっそりため息をついた。
「」
声に出せば、空で溶けて消えてしまう名前。
どのような色を乗せても、泡沫のように消えてしまう。
「……」
それでも。
声に出して呟いて、そうすることで、じんわりと沁みていく気がする。
自分の体の隅々にまで、行き渡る気がする。
「」
……届く、気がする。
「…ははっ」
全くもって、黒羽快斗の言うとおりだ。
みっともなくて、情けない。
彼女という存在を想っているときの自分は、きっと最高にかっこ悪い。
自分を繕う余裕もないくらい、焦がれているから。
……でも、それでも構わないと思う。
「それで、君が棄ててくれるのなら」
…彼女はきっとまだ、棄てきれていない。
誰かを想うが故の、自己の姿を認められていない。
ひたすらに想うことを、怖れている。
誰かを強く想うことは、拒否の恐怖との戦いでもある。
……だからこそ、より強く。
「」
ただひたすらに、君を想う。
この想いの行き着く先は、ひとつところしかないのだから。
05 ← → 07
---
20090914