ちら、と。
伏せていた瞳をあげると、ばっちりと瞳が合って。
(う……)
再び視線を下げ、はこっそりと息を吐いた。





苦し紛れの反抗





(……これは、どうしたもんかな)
視線を下げたままだんまりを決め込むを前に、ふむ、と考える。
言葉遊びで追い詰めることは簡単だ。
けれど、それでは駄目だ、とも思う。
の本音を、自分の考えた、自分の言葉で聞きたい。
それならもう、下手な小細工は邪魔になるだけだろう。
「ねえ、さっきの話の続きだけど。…あいつ、って誰?」
「え」
直球で来た白馬の台詞に、が小さく声を上げる。
反射的に白馬のほうを見て、…再び視線がかち合ったが、今度は逃げることはしなかった。

……白馬の瞳に潜む、“本気”を見たから。

(ど…どうしよ、う)
もう逃げることはできないのはわかっている。
それなら会話を続けなければいけない。
でも、会話を続けようにも、白馬の質問に答える言葉を自分は持っていない。
(……じゃ、駄目だよね)
汗をかいたグラスを、ぎゅ、と握る。
ひんやりと冷たくなったそこから、じわじわと全体に広がって……
少しだけ、頭が冷えた。
「…わかってると、思うんだけど」
小さく、ゆっくりと話し始めたに、白馬はただ黙って頷く。
「あいつ、は……探、のこと。」
そう。あの時話していたのは目の前に居るこの男、白馬探のことだ。
……問題は、その先で。
「で、は僕のことをなんとも思ってない、んだっけ」
「違っ……!」
がたん、と椅子を蹴って立ち上がり、とっさに出た否定の言葉に、ははたと自分の口を覆った。
「………“違”?」
に、と。
口角を吊り上げて繰り返した白馬に、ぼぼぼぼと頬が赤くなるのを感じる。
「ち…ち、違、わな……くもないような気がするようなしないかもしれないような、」
「ほら、落ち着いて。まずは椅子に座って」
「……はい」
ゆっくりと椅子に腰掛ける。
すぐに視線を上げることはできなくて、でも黙って下を向いていることも出来なくて。
残っていたアイスティーを一気に飲み干した。
「もう一杯買ってくる!」
、」
白馬の静止の声も聞かず、は座ったばかりの椅子から立ち上がって駆け出した。
(……やれやれ。)
レジへ駆け込むように走っていくを見て、小さく嘆息する。
少し、性急過ぎただろうか。
…けれど、そろそろ自覚してもらいたかった。
自分への、想いを。
(…自惚れているわけじゃないんだ)
ぐしゃ、と前髪をかきあげる。
……焦っているのは、追い詰められているのは、自分だ。
自分がいかにを大切に想っているか、伝わっていないのではないか。
誰か別の男に、横からさらわれてしまうのではないか。

…もしかしたら、は本当に自分をなんとも思っていないのではないか。

そんな不安で、押しつぶされそうだった。
「全く、呆れるな」
そんな情けない自分に。
……けれど、それは全て、だからこそ。
じゃなければ、こんな風になることもないのだ、と。
彼女は、わかっているのだろうか?
(遅いな……)
ふと、何の気なしにレジのほうを見て。
「………っ、」
そこに、の姿はなかった。
……!」
財布以外は、鞄ごと椅子の上に置いたままだ。
この上どこかに行くはずなどないと、油断していた。
「……まだ、逃げるのか」
ちりちり、と。
自分の中で、燻るように燃える感情。
それと同時に、その燃える炎が、自分の中の何かを灼き切ったのを感じた。

それは恐らく、理性という名の手綱。

「……上等だ!」
自分との鞄を引っ掴むと、白馬は店を飛び出した。





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20090829