店内に残されたふたり。
気まずい状況の中、先に口を開いたのは白馬だった。
「……お久しぶりです。お元気でしたか?」
「う、うん。白馬くんこそ元気だった?」
会話は、なんでもない挨拶から始まった。
「ええ、おかげさまで。それより、がすみません」
が勘定を青子にまかせて出て行ってしまったことを言っているのだろう。
まるでの身内のように謝る白馬に、青子は慌てて首を振った。
「ううん! 青子もいつもにはいろいろお世話になってるし!」
「そうですか」
気にしないで、と青子笑うと、白馬も微笑んだ。
相変わらず紳士的で快斗とは大違いだ、と青子は感心する。
白馬はさりげない様子で先程までがいた席、つまりは青子の向かい側にに座ると、が飲んで半分ほどになっていたコーラからストローを抜き、グラスに口を付けた。
(へぇ〜、白馬くんもコーラ飲んだりするんだ〜)
量の減っていく液体を眺めながら、青子はぼんやりとそんなことを考える。
白馬はあっという間にコーラを飲み干してしまうと、テーブルに置かれた伝票を持って立ち上がった。
「えっ、白馬くん!?」
「すみません、来て早々。本当はゆっくりとお茶をしたいところなのですが」
「あ、いや、それはいいの。を追うんでしょ? そうじゃなくて、自分の分は自分で払うよ」
「迷惑料です。僕に払わせて下さい」
むしろこんな安いものですみません、なんて白馬に言われて、青子は何も言えなくなる。
ここは奢られておくほうが得策だろう。
「それじゃあ、ごちそうさま」
「はい、また新学期に」
そう言って会計に向かう白馬を目線だけで見送って、青子はふぅと息を吐いた。
、本当に白馬くんのことなんとも思ってないのかなぁ)
そうとは思えないんだけど。
出て行ったときのの慌てようを思い出しながら、青子はメロンソーダのストローをくわえた。





この状況でどうしろと?





(うわああぁぁぁあ)
先程とは違う喫茶店で、はひたすら頭を抱えていた。
最初は、喫茶店に入るつもりなどなかった。
お気に入りの、小さな川がある土手に向かうつもりだったのだ。
あの土手からは、電線のない空を眺めることができる。
ぼんやりと考え事をしたいときにはもってこいの場所なのだ。
だが、どうだろう、この天気。
照りつける太陽。
30度を越える気温。
とてもじゃないが、空を眺めるどころではない。
たった1分でさえ、こんな炎天下で空を眺めながら考え事などしたら、熱中症を引き起こして病院に運ばれそうだ。
冷房の効いた喫茶店でよく冷えたアイスティーを飲んでいる今だって、考える内容のせいで頭が沸騰しそうなのに。
はあ、とは溜息を吐く。
なんであのとき、咄嗟にあの場から逃げてきてしまったのだろう。
どうせ、夏休みが終われば必然的に顔を合わせなくてはいけなくなるというのに。
これでは、次に会うときますます気まずいではないか。
(ていうか、気まずいってなんだろう……)
なぜ、気まずいなどと思うのか。
よくよく考えてみれば、べつに友人に恥をかかせたくないと思うのだって、普通のことだ。
しかし、確かにあのとき自分は、自分の考えた内容に動揺した。
なぜ。
この疑問は、再びどうして逃げ出したのかという疑問に繋がっていき、頭の中で疑問が延々とループする。
いや、本当はなんとなく分かっている。
けれど、心に頭が追い付いていない。
理解、しきれていないのだ。
はあ、と再び溜息を吐いたところで、視界に影がさした。
そして、ことん、と目の前に置かれるもうひとつのアイスティー。
はっとしたときには、もう遅かった。
「やあ、こんなところでひとりでお茶かい?」
「さ、探っ!?」
彼が目の前にいることを認めた瞬間、は咄嗟に立ち上がっていた。
ここは、先に飲み物なり食べ物なりを買ってから好きな席に座るタイプの、全国に店舗が数多くあるチェーンの喫茶店だ。
逃げようと思えば、さっさと逃げられる。
だが。
「なぜ逃げようとしているのかな? 
「べっ、べつに逃げようとしてなんか……」
そっと肩に置かれた白馬の手が、のその行動を制した。
どうやら、逃がす気はないらしい。
「へえ? それじゃあ、僕とお茶、してくれるよね」
「あー……私ちょっと用事が……」
の目が泳ぐ。
もちろん、用事なんてない。
「今日は1日暇だって、青子くんから聞いたけど?」
「うっ……」
後ろめたいところがあるは、白馬のさり気ない嘘には気づかなかった。
そういえば、青子を喫茶店に置き去りにしてしまったということを思い出す。
今すぐあの喫茶店に戻りたい気分だ。
青子はまだ、あそこにいるだろうか。
「まあ、座りなよ」
「……はい」
いや、もう帰っただろうな。
そう思うと同時に白馬に促されて、はおとなしく席に着いた。
短時間でなんだか異様に喉が渇いたので、まだほとんど飲んでいなかったアイスティーを半分ほど口の中に流し込む。
やや乱暴にグラスをテーブルに置いて、は疲れた様子で口を開いた。
「ていうか探、なんで私がここにいるって分かったの……」
「喫茶店から逃げた後、ならあのお気に入りの土手に向うと思ったんだけれどね。今日は暑かったから、たぶん、土手は諦めて近くで喫茶店を探すだろうと思って。幸い、この辺りにはそう多くの喫茶店があるわけじゃないからね」
すぐに分かったよ。
そう笑う白馬を見て、は軽い頭痛がした。
完全に読まれてる。
これだから探偵ってやつは厄介なんだ。
この状況で、いったいどんな会話をしろというのだろう。
考えて、はがっくりと項垂れた。





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20090829