冷たい水で、指を洗って。
それでもまだにじみ出てくる血を、もう一度洗い流して。
ティッシュで、拭いて。
「……ふー。」
一緒に、自分の頭も冷水で洗い流したみたいに、頭が冷えた。
「うん、よし。……うん。」
そう。さっき、自分でも考えていたじゃないか。
白馬探という男は、鋭い人間だと。
……つまり、私がここでぐちゃぐちゃ悩んだり考えたりしても、それは全部お見通しなわけで。
「だったら、もう腹をくくるしかないよね。」
最後にもう一度、小さく呟いて。
は、教室のドアに手をかけた。
「探」
「おかえり、。ちゃんと洗ってきたかい?」
「うん」
そう言って頷いたは、先ほどまでの挙動不審ぶりは消えていて。
(…………)
心を決めたのに、違いなかった。
「指、貸して。ほら、絆創膏貼らないと」
「…うん、ありがとう」
差し出した指を、そっと絡め取られて。
その指先の感触に、伝わる体温に、壊れ物を扱うかのような優しい動きに。
落ち着いていたはずの心臓が、再びどくん、と大きく跳ねた。
「…探ってさ、大概卑怯だよね」
たかが絆創膏を貼ってもらうだけだというのに直視できず、視線を明後日の方へ向けて文句を言ってやる。
「何がだい?」
くす、と笑って返され、ますます唇を尖らせる。
「全部わかって、全部自分の思うように動かして…探ばっかり余裕で、なんだか私、馬鹿みた、」
「」
白馬の諌めるような声に、言葉が途中で途切れる。
……なんだろう。私は今、何かまずいことを言ったのだろうか。
「終わったよ」
何事もなかったように言われ、瞬間呆けていたも、「あ、ありがとう」と慌てて返した。
「…馬鹿みたい、じゃないよ」
「…探……?」
不意に呟いた白馬に、が不思議そうに問いかける。
「馬鹿みたいじゃない。はいつだって一生懸命で、頑張ってる。…真っ直ぐで、すごく可愛いよ」
「な!」
またそういうことを、といいかけた唇は、白馬の差し出した人差し指で塞がれた。
「…………っ!」
「本当のことだよ。…それに、僕だって余裕なんかじゃないんだ。今だって、ほら」
の口元を離れた指が、ゆっくりと下がって、の指先を絡め取る。
そのまま、そっと白馬の胸元へと押し付けられた。
「……さぐ、る…?」
どくん、どくん、どくん。
それはきっと、常より大きく、早く、激しい鼓動の音。
「に何を言われるか、って。…緊張して、この様だよ」
そう言って笑った白馬の顔は、……きっと、今の自分とそっくり同じなんだと思う。
情けなくて、それでも精一杯の笑顔。
(なんだ)
探も、一緒なんだ。
……そう思ったら、安堵して、なんだか張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。
「…ふ、ふふ」
「?」
なんて言おうか、どう伝えようか、どの言葉を選ぼうか。
頭の中で考えていたあれこれが、一気に全部飛んで、たったひとつの言葉が残って。
「探」
「うん」
繋がれた指先に、ぎゅ、と力を込めて。
「私、探が好き」
あんなに考えて考えて煮詰まっていたのが嘘みたいに。
その言葉は、するりと口から滑り出た。
「探が、好きだよ」
自分自身で確かめるように、かみしめるように。
ゆっくり、もう一度言って。
へへ、と照れ笑いで笑った顔を、果たして白馬は見ていただろうか。
「―――――っ!?」
その瞬間、繋いだ手を強く引かれ、気付けば白馬の腕の中だった。
「さっ……!?」
「ごめん」
「…え?」
謝罪の言葉に、心臓が冷える。
…それは、その言葉のもつところの、意味は。
「……ごめん。ちょっと今は、加減できない。きついかもしれないけど、このままでいてくれるかな」
「え…う、ん……」
息苦しさを覚えるほどの腕の力に、が必死に応える。
拒まれたわけではないのだと、早鐘のような心臓がそれを伝える。
「ずっと…ずっと、待ってた」
耳元で囁かれる、甘く優しい声。
緊張しているのか、少しかすれていることすら声に艶をかけている。
「好きだ。……大好きだよ、」
「………うんっ…探っ…!」
待たせてごめん、とか。
ずっと言えなくて悪かった、とか。
きっと今は、そんな言葉はいらない。
ただ、この人の想いに、全力で応えたい。
自分の想いを、全力で伝えたい。
君が好き
「…これからはもう、遠慮はしないからね?」
「え?」
「…覚悟しておくことだね、」
「え、えええええっ……!!!?」
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20091224